劇場公開日 2003年3月15日

「コミカルで音楽たっぷりの一本」過去のない男 talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0コミカルで音楽たっぷりの一本

2024年6月10日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

<映画のことば>
記憶がなくても心配ない。
人生は後ろには進まん。
後ろに進んだら、大変だ。

人間は「過去」がなくても、こんなに淡々と暮らせるものなのでしょうか。
不慮の事件に遭遇して過去(過去の記憶)をなくしてしまった彼なのですけれども。
実際、職探しにも、本名や生年月日や社会保障番号などの「過去」が必要とされ、挙げ句の果てに、薬物常習者扱いされる始末。

しかし、その一方では、売れ残りとはいえ、ミルク付きの食事を提供してももらえるなど、周囲の人々の温かな受け止めによって、今(現在)から未来に向かって歩みを始め、結果として生涯の伴侶にまで巡り会うという、いわば「ハッピーエンド」で、その描かれ方が、どことなくコミカルで、ほのぼのと眺めることのできる一本でした。

本作のアキ・カウリスマキ監督の作品は、評論子はあまり観ていないのですけれども。
しかし、DVD特典映像に収録されていた本作の主演女優:カティ・オウティネンのインタビューによれば、本作の同監督の作品は、どれも人物や物語を大切に描く、とのこと。
これから観続けて行くのが楽しみになった監督さんが、また一人増えたのかと思うと、それだけでも満足な評論子ではありました。

佳作であったと思います。

(追記)
拾ってきたジュークボックスを修理してもらい、コンテナ暮らしながら、彼の日常は、過去がないながらも「音楽はある生活」。
本作は、監督自身もファンであるというイスケルマというフィンランドのバンドのムード歌謡がたっぷりと散りばめら、それが本作の「雰囲気づくり」には、欠かせないアイテムにもなっていたようです。
やはり、素敵な(お気に入りの)音楽に浸れることは、日常の生活の中では、大切な要素なのだということなのででしょう。

(追記)
本作に登場する救世軍は、首都圏にお住まいのレビュアー以外には、なじみがなかったかも知れません。
(首都圏では、歳末の募金活動「社会鍋」でおなじみと思いますが、評論子も大学進学で首都圏に住むまで、知りませんでした。)
宗教団体(日本での位置づけは包括宗教法人)なのですが、現代社会での福祉水準向上のためには自らにも軍隊的規律が必要とのことで「軍」を名乗っているようです。
社会福祉活動としては、病院も経営しており、喘息持ちの評論子としては、都内在住の折は、杉並区内にある「救世軍ブース記念病院」に、よくかかってもいました(ブースというのはイギリス人の人名で、救世軍の創始者らしい)。
ドクターもナースも、もちろん院内では白衣姿なのですけれども。
しかし(今でもそうかは分かりませんけれども)その白衣の下は軍服姿で、襟には階級章が付けられていたのを、今でも覚えています。

<映画のことば>
演劇学校なら近くにある。
芝居なら、そこでやれ。

<映画のことば>
「待ってくれ。電話を一本かける権利はあるはずだ。」
「映画の観すぎだな。」

<映画のことば>
「カネは払う。死と同じくらい確実に。」
「払わなければ、どうせ死ぬことになるさ。」

talkie