劇場公開日 2003年3月15日

過去のない男 : 映画評論・批評

2003年3月15日更新

2003年3月15日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー

今回のカウリスマキは見事にひと皮向けている

カウリスマキの新作でまず意外だったのは、彼が「浮き雲」に始まる3部作の2作目としてこの作品を撮ったということだ。彼は以前、「浮き雲」を例外的な作品のように語っていた。フィンランドが深刻な経済危機に見舞われ、国中が絶望に覆われるなかで、彼がその問題を見つめようとしたのが「浮き雲」だった。そのドラマがハッピーエンドなのは偶然ではないし、彼はこの作品を、唯一のソーシャル・セラピー的な映画と説明していたのだ。

カウリスマキは過去に、「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」からなる“敗者3部作”を作っているが、それと新しい3部作ではドラマと人物像に明らかな違いがある。敗者3部作で逆境に追いやられた主人公たちは、どこかにある楽園を夢見つつも、最終的にそこに至ることはない。これに対して、同じように逆境に追いやられる新たな3部作の主人公たちは、人間としての誇りに目覚め、あるいは最初からそれを守り通し、自分たちの足下に楽園を見出していく。

カウリスマキは「浮き雲」については、そうした理念を打ち出したことにいくらか戸惑いを感じているようにも見えたが、新作では完全に吹っ切れ、見事にひと皮剥けている。

(大場正明)

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