「【アキ・カウリスマキ監督が、当時のフィンランド不況を背景に、ぶっきら棒ながら心優しき人々が”過去を失った男”を支える姿が心に沁みる作品。今作は微かな希望と人間の善性を描いているのである。】」過去のない男 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【アキ・カウリスマキ監督が、当時のフィンランド不況を背景に、ぶっきら棒ながら心優しき人々が”過去を失った男”を支える姿が心に沁みる作品。今作は微かな希望と人間の善性を描いているのである。】
■夜行列車でヘルシンキにたどりついた男性(マルック・ペルトラ:荻上直子監督の「かもめ食堂」で、”コピ・ルアック”と言いながら、美味しい珈琲を入れるおじさんですね。)は暴漢に襲われ、意識不明の重体に陥る。
病院に担ぎ込まれ、一度は死亡宣告を受けるが、奇跡的に息を吹き返して病院から脱走する。
男性は港湾地区で行き倒れとなっていたところを、貧しきコンテナに住むニーミネン一家に助けられ…。
そして、キリスト教プロテスタントの慈善団体”救世軍”にも、炊き出しや衣服の提供を受ける。
◆感想
・今作は、私の勝手な感想であるが、アキ・カウリスマキ監督の人間性肯定感が、抑制したトーンで描き出された秀作であると思う。
・派手な演出は、アキ・カウリスマキ監督作品であるので一切ないが、ヘルシンキに”ある事情”で
でて来た男(マルック・ペルトラ)が暴漢に襲われ、記憶を失いつつも、彼をサポートするコンテナで暮らすニーミネンであったり(彼は、貧しい中、男にビールを奢る)、コンテナを提供する警備員であったり・・。
ー 皆が、全面的に男を支える訳ではなく、”条件付け”で支える処も、良いのであるなあ・・。-
・銀行強盗に入った男に巻き込まれるシーンなども、その男が当時のフィンランドの不況ゆえに仕方なく行った事をさり気無く描くアキ・カウリスマキ監督の視点も良い。
ー 彼の名監督は、当時の自国の状況を”負け犬三部作”で世に問うた訳であるが、自国の政府に対する怒りを、オフ・ビート感溢れる作品にしたことで、絶妙にカムフラージュしているのである。-
・そして男が出会った”救世軍”(キリスト教、プロテスタントの一派)で炊き出しをしていた女性イルマ(カチィ・オウティネン:アキ・カウリスマキ監督の、作品には欠かせない方である。)。
ー 最初は、素っ気ないが、徐々に惹かれて行く二人の姿。ー
<今作には、確かな人生の希望がある。そして、アキ・カウリスマキ監督の、人間性肯定の姿勢も全面に出た秀作であると、私は思う。>
■今作公開後に制作、公開された、荻上直子監督の「かもめ食堂」は、”絶対に今作に影響を受けてる!”と勝手に思っている作品でもある。