「違和感映画」回路 Nightmare?さんの映画レビュー(感想・評価)
違和感映画
ホラー味が強いわけではなく、時代批評とも言い切れず、スリリングな展開が待っているかといえばそうでもない。でも、イヤーな雰囲気がいつまでも続いて、怖いことが起こるんじゃないかという予感を持続させてくる映画。
一応動機付けとしては「死んだら孤独なのか、そうではないのか」と「死んだ魂のいる場所がそろそろ満員状態」の2つが語られるが、前者についてはわかるわけないし、後者は「そんなことある?」と思う程度で、これらを物語として解決していくわけではない。
それでもこの作品が他のホラー映画と一線を画すのは、いたるところに配置される違和感だ。薄汚れたビニールシートで仕切った部屋なんか変だし、相手と明るく会話をしている途中でロープを手にして別の部屋に消えていく人物の唐突さ(これは黒澤作品の得意技)。冒頭で自殺についての会話をする喫茶店の名前が、幸福度は高いが自殺者数も多いことで有名な「スウェーデン」。バスの車窓を流れる風景があからさまなスクリーンバック合成(これも得意技)。大学の研究室(何の研究をしているのかも不明)の一角に積み上げられている得体の知れないダクトやらチューブなどの廃品、扉の縁に赤いテープを貼っていく謎の女、おそらくマンションなのだろうがとてもそうは見えない異様な建物。終盤で、もうテレビ局など到底機能していなさそうな状況なのに、延々と死亡者を報道し続けるテレビ画面。
こうした違和感の数々が、恐怖とはいえないまでも強い不安を感じさせる。黒澤清作品に通底する不気味さをこれでもかと見せつけられる。
残念なことに、何かが解明されることはなく、微妙な救済(になっているのかなぁ?)で終わるところはストーリーテリングとしての納得感は薄く感じる。まあ、そこはあまり重要ではないのだろう。理性では割り切れないものを描くという意味では、実に黒澤清監督作品的ではある。