「市川リメイク版と、先日の吉岡金田一版も併せてのレビューとなりました」犬神家の一族 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
市川リメイク版と、先日の吉岡金田一版も併せてのレビューとなりました
市川崑監督が1976年の自身の名作をセルフリメイク。
市川監督はセルフリメイクがお好きなようで(と言うより、今ならどう描けるか/作れるか)、以前も『ビルマの竪琴』をセルフリメイクしたが、あちらは新たな要素や解釈を取り入れていたのに対し、本作はほとんどそのまま。
当時と同じ脚本を用い、同じカメラワーク、同じ構図、同じカット割り、同じ美術…。
さすがにキャストは違うが、それでも金田一=石坂浩二、等々力=加藤武、神官=大滝秀治は同じ役。
実験的な作品であり、こだわりであり、老いても尚自らを超えようとする超人的な創作意欲と挑戦精神に敬服。
…しかし残念ながら、オリジナルには遠く及ばず。私にとってオリジナルは“神映画”の一つであり、あの世界観、テクニック、完成度…何もかも完璧。映画の至宝。
同じ脚本を使っているのに、どうしてこうもパワーダウン…? 市川監督がかつてのようなキレや冴えを発揮出来なかったか、役者の力量不足か(何名か目に余る棒演技…)、それともやはりオリジナルは超えられないのか。
話は同じなので決してつまらなくはないのだが、ちょっと…な感は否めない。
比較したら色々キリはない。が、本作はそうやって見るもんじゃない。
市川×石坂金田一をまさか劇場で観れるなんて…! あのタイトル・クレジットと音楽を劇場で体感した時の興奮と感動…!
金田一が去っていくラストシーンは出色だった。オリジナルのラストシーンもいいが、本作の方が余韻や市川監督の金田一への愛を感じた。ひょっとしたら、このシーンが撮りたかったのかも?…とさえ思った。
本作は2006年末に公開され、その僅か1年ちょっとの2008年2月に市川監督は死去。遺作に。
サイレントからトーキー、白黒からカラー、フィルムからデジタル、アニメやドキュメンタリーまで、文字通り映画の歴史と歩んだ。
そんな市川監督への映画界から、市川監督から我々映画ファンへの、これはご褒美なのである。
ちょっと場をお借りして、先日NHK‐BSで放送されたSPドラマ版を簡易レビュー。
『悪魔が来りて笛を吹く』『八つ墓村』に続く、吉岡秀隆金田一の第3弾。
前2作は2時間枠だったが、今回は前後編の計3時間。
大抵『犬神家の一族』は佐兵衛翁死去のシーンから始まる事が多いが、佐清と静馬が出会う戦場シーンから始まり、全く新しい『犬神家の一族』を作ろうとする意気込みが伝わってきた。
吉田照幸監督の演出はオマージュやリスペクトしつつ、しっかりと世界観を構築。キャラの心理描写も丹念。
キャストも熱演見せ(さすがの大竹しのぶの松子夫人、金子大地の目の演技)、吉岡金田一もすっかり定着。
ラストが新解釈! 静馬の復讐、哀しき運命に翻弄される松子と佐清…この原作通りから逸脱。まさかの人物の目論見らしきが浮かび上がり、びっくり! 賛否出そうだが、『シン・犬神家の一族』としてインパクト残した。
勿論次も期待。次は何かなぁ…?
って言うか、映画でやって欲しい!