犬神家の一族 : 映画評論・批評
2006年12月12日更新
2006年12月16日より有楽座ほか全国東宝系にてロードショー
市川崑監督による、新しい観客に向けての挑戦状
懐かしのテーマ曲にのって「犬神家の一族」が帰ってくる……。76年に公開されたオリジナル版は、その後日本映画界に旋風を巻き起こす“角川映画”の第一弾として大ヒット、“探偵・金田一耕助もの”が市川崑監督の手でシリーズ化されたことはよく知られている。といっても、昔のオリジナル版を知る人にしか本作を楽しめない、というわけじゃない。驚くほど前回のタッチを尊重し継承した今回の映画化は、むしろ前回の映画化を体験し損なった新しい観客に向けて、自信を持って再びあの「犬神家の一族」をそのまま見てもらおう……との挑戦状であると僕らの目に映る。いずれにしても、敗戦直後の日本を舞台に血縁や因習の強固さと脆弱さを背景とした暴力を描く本作を前に、最近流行りの昭和レトロ気分に浸る余裕など僕らに残されていない。
たとえば、デビッド・フィンチャー監督の「セブン」が公開されたとき、大騒ぎする世間を尻目に僕らは、この手の映画なら市川崑による金田一シリーズで体験済みである……と奇妙な既視感と共にうそぶくことができた。おどろおどろしい設定とペダンチックな文学趣味で彩られた連続殺人を完成度の高い画面で、しかも強靭な娯楽志向を土台に据えてつづる市川美学が、若い観客にどんな反応を呼び起こすのだろう? 最後に、今回の「犬神家の一族」を楽しむ上で最良のガイドにして予告編として、現在公開中の岩井俊二監督の「市川崑物語」があると付け加えておこう。
(北小路隆志)