「ドリフ・コントと、圧巻のダンス。 誰にでも勧められる安心感溢れる映画。」フラガール とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
ドリフ・コントと、圧巻のダンス。 誰にでも勧められる安心感溢れる映画。
メイキングと(震災)後日談『がんばっぺフラガール』も観たくなりました。
プロジェクトX的な話になりそうだけど、フラガールに絞ったのが話がすっきりしてよかったのかな。
この土地の人がこれするの?という展開は、ジャマイカンボブスレーチームの話『クールランニング』と同じ。アル中のコーチが最後には…ってとこも似ている。どちらも実話がベースの映画化。感動話は似るってことか。でもテイストがまったく違う。ジャマイカンリズムとフラというバックミュージックの違いかもしれないけれど、ああ、日本だなあと改めて感じいる。
泣きました。笑いました。でも☆5かと言われるとなんか違う。誰にでも勧められる安心感溢れる話。バス旅行のお供に、町内会の上映会に最適。なんだけど…。
何故かドリフのコントを観た気になる。
吉本がキレる場面は迫力だし、フラで先生を呼び戻す場面は泣ける。本当のエピソードだというが作り話っぽくなっちゃっている。そういう演出狙ったのでしょうが、なんで? 後から思い返すと興ざめ。
岸部さん、富司さんの演技がすごいのですが、浮いちゃっている。
リストラされた怒りとか、目の前に閉山が迫っている状況はもっと厳しいだろと突っ込み入れたいところが多い。早苗の父がリストラされた場面、人生かけた仕事が否定されている状況なのに怒りはあの程度?早苗を殴るエピソードが続くなら、解雇通知を受け取る場面でもっと怒りを表現してほしかった。大声で暴れまくるのか、抑制して凄味を出すのかは監督の好みだと思いますが。
吉本の方言キレまくりも早口言葉で凄かったけど、怒りとか切羽詰まった状況・迫力は伝わってこない。岸部さんは目とかだけでも演技できる方なんだからああいうパフォーマンスではなくてもっと表情大写し、一言ボソの方が心情が伝わってきたように思えるんだけど…。実際のエピソードをそのままやったんだろうけど…コントだよ。
洋二郎が、仕事仲間がハワイアンに鞍替えするのを知ってブチ切れるシーンは、豊川氏の方言がきっちりはまっているのに、三宅氏の言葉は方言になっていなくて、豊川氏の演技が空回り。炭鉱男の本音トークの重要な場面なのに残念。
映画って一部の才能ある人がきっちり演技するだけじゃダメなんだな、難しいな、と思いました。
池津さん、志賀さんは良い味出してます。
闇の部分は触るけど、掘り下げないでオブラートに包んで流す。予定調和の世界。
モデルとなる方々がご存命だから難しいのでしょうかね。☆5つをつけるにはもう少し闇の部分に踏み込んでほしかった。この程度で「社会派」になっちゃうなら、同じシネカノン配給の『誰も知らない』は何て呼べばいいんだ?と私の中の基準です。
『怒り』の監督。『怒り』は人間の本質を突きつけられ、えぐられ、そのくせ人間愛にむせび泣いてしまう究極の作品と、私の中では最上級の賛辞を捧げている映画。
その監督が、どうして掘り下げ方が足りないんだと不満を持ってしまうが、”成功秘話”としての”陽”の部分だけにあえて留めたのかな?
反面、ダンス場面は秀逸。
松雪さん演じるコーチのフラの手つきは柔らかくて官能的。一人で踊っている場面も、フラメンコのような情感にあふれた情熱的な踊り。さすが、恋も何もかもいろいろなことを経験済みの30代。
対して、蒼井さん演じる紀美子のフラの手つきはちょっと硬い。初心者の、習ったこと一生懸命やってますみたいな、まだいろいろなこと未経験の清純さが表現されている。
母の前でソロの練習をする紀美子のダンスもすごい。母に観られていることを知っているから、緊張と迷いと反発いろいろな感情が揺れ動いているが感じられる。
…演出?すごいや。踊って楽しいだけじゃない、コミュニケーション手段なんだ。
そして圧巻は、最後のダンス場面。もう、紀美子の一世一代の大舞台、すべてをかけているという根性がビシビシ伝わってきて思わず応援したくなる。紀美子をはじめとする彼女たちの踊り、もうそれだけで感動です。
何に感動して泣いたかって、やっぱり紀美子の踊りを覚える、成功させなきゃというあの必死さ・ひたむきさでしょう。あの最後のダンスをああいう形にもっていったのは演出力だと思いますが、メイキングの方が感動できるんではという不埒な思いも頭をよぎる。
要所要所、一部の役者は凄い。また国民的人気番組ドリフのコントのテイスト散りばめ、泣かせどころもきっちり計算、と、とても凝っている。でも、だからこそ「おしい!!!」って気にさせる。そういう演出がエンターテイメントとして結実するのとそうでないのとの差って何なんでしょう?
日本の誇る『寅さん』や『釣りバカ』みたいな作品です。
☆ ☆ ☆
それにしても、映画とは関係なしに、
ここにハワイを作る!という発想がすごい。
初めてハワイアンセンターに行ったときは、まだ子どもだったから「なんでハワイの偽物が…」と思っていた。黄風呂とか、足元に金魚たちが泳いでいる風呂が珍しかった(昔の記憶なので間違っているかも)。
ハワイのポリネシア・カルチャーセンターで見たショーがハワイアンセンターのショーと同じでびっくりしたっけ。
炭鉱閉山危機。
炭鉱が寂れ、町が活気を失っていく様は『鉄道員(ぽっぽや)』で知る。炭鉱を渡り歩く男を志村氏が演じていた。
生きる術を勝ち取るための戦いとしてストライキを選んだ炭鉱夫たちの実話をもとにした『パレードへようこそ』。
生きるためにとる手段。常磐炭鉱が選んだのはレジャー施設を作ること。しかも、外部からプロを呼ぶのではなくて、従業員やその家族を使って。そんな無茶な話が成功してしまうなんて。
業績が悪くなったから、早期退職者を募り、出向先を切りるのではない。
ある意味、この常磐炭鉱のやり方が、本当のリストラなのだろう。とはいえ、やみくもに事業展開して赤字を拡大するケースも多いというのに。
炭鉱労働者達の反対だけでなく、今も湯本駅周辺に並ぶ温泉宿からの反発はなかったのだろうかと心配してしまうが、温泉組合の女将たちが、フラ女将カレーというレトルトカレーを出しているのだから共存ということか。
『超高速!参勤交代』の湯長谷藩の土地。『超高速!参勤交代』はフィクションだけれど、知恵を絞って危機を乗り越えるところが、江戸時代も昭和も同じで、心が温かくなった。