「敵国の黒人兵の存在が、「ムラ」社会に混乱をもたらす人間の暗部。」飼育(1961) M.Joeさんの映画レビュー(感想・評価)
敵国の黒人兵の存在が、「ムラ」社会に混乱をもたらす人間の暗部。
1961年(昭和36年)、戦後16年目に公開されたモノクロ映画。
1958年(昭和33年)に芥川賞を受賞した大江健三郎の同名小説の映画化。
「太平洋戦争の末期、米軍機が山中に墜落し、黒人兵士が村人に捕らえられる。村に巻き起こる混乱を捕虜のせいにして収拾しようとする村人たちの姿に、戦時下の庶民の心の暗部を浮かび上がらせる。」(広島市映像文化ライブラリーフライヤーより引用)
田舎の山奥に暮らす人々が鬼畜米英の黒人兵を捕まえたところから物語が始まる。捕虜の対応は定められており適切に対応しなければならない。そこで暮らす多くの農民たちは自らも生きるのが精一杯の中、敵国の兵隊に食事を与え、世話すること自体大問題。
「ムラ」の組織としての町内会長、負傷した軍人の町役人がそこを仕切る。黒人兵は縛られたままにもかかわらず、その兵士がそこにいることで、村人たちにさまざまな葛藤や怒りがほとばしっていく。
「ムラ」を構成するのは、本家であり裕福な町内会長とそこで働く人たち、多くの貧しい農民、町役人、疎開で身を寄せる家族、親戚の娘、何でも興味を示す男の子たち、徴兵を拒否する男、息子を戦争にやった家族。
異質なものが、ムラに来たらどうなるのか。直接は黒人兵とは全く関係のない、ドロドロとした上下関係、女性関係などがむき出しになることの恐ろしさ。そしてそれを止めようとするのは誰なのか。また、ケリを付けるのは?良識のある人もいるが、多数の人は、暴力的価値観で物事を見ている。
何事も隠蔽の道を選んでしまう日本の社会の闇の部分を見た。
それにしてもこの時代の役者の迫力の演技に圧倒される。
広島市映像文化ライブラリー「生誕100年・三國連太郎特集」。