エニグマ : 映画評論・批評
2003年5月15日更新
2003年5月17日より渋谷東急3ほかにてロードショー
そして、もうひとつのエニグマが機能し始める
タイトルの「エニグマ」は、第2次大戦中のドイツが使用した暗号システムのことだが、この映画にはもうひとつの「エニグマ」が登場する。原作は未読なのでそれがどの程度フィーチャーされているのかは分からないのだが、おそらく映画より小説の方が一般的な意味での「謎解き」の要素が強いのではないか。映画の方は、ある種のラブストーリーと言ってもいい。
そう書けば、もうひとつの「エニグマ」が何かは、分かるだろう。ただそれは、例えば「運命の女」の典型としては登場しない。過去形で登場する運命の女、と言えばいいだろうか。彼女がそこにいないことが、愛の暗号システムとして機能し始めるのだ。
映画製作者たちがそこに注目したのは、製作規模の問題も大きく作用していたと思う。ハリウッド大作なら、原作の「謎解き」を堂々とやれるのかもしれない。だがこれはイギリス映画である。そこまでの予算はない。ただ原作の「謎」は、ハリウッド的な「謎」の他にもあるはずだ。そこを描くのが、イギリスでこれを作る意味であるだろう。そんな思いがこの映画を実現させたのではないか。だがもちろん愛は「謎」のままだ。人はその周りをグルグルと回る。映画も作られ続ける。それが人生だと、この映画は語っている。
(樋口泰人)