劇場公開日 2002年3月9日

「単なるアクション映画で留まらない」エネミー・ライン あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0単なるアクション映画で留まらない

2018年12月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

舞台はボスニアヘルツェゴビナ
映画「ユリシーズの瞳」と同じ場所
その5年後の出来事だ
物語は地対空ミサイルで撃墜された戦闘機の後席の航法士の敵中横断とその救出劇
要約すればこれだけのお話に過ぎない
現代の実物の兵器が登場してリアルさが素晴らしく、アクション映画としてレベルは高い
撃墜と前席操縦士の相棒の処刑の目撃と山中の敵中の突破を経て、主人公の人間の成長物語でもあり、ジーン・ハックマン演じる救出に腐心する司令官の責任者としての苦悩の物語でもある
そしてもちろんハッピーエンドで終るのだ

観終わって胸中に去来するのは、面白かったとアクション映画を観終わったそれであるのは確かだ
しかし、「ユリシーズの瞳」、「バルカン超特急」とこの舞台となった地域を舞台にした映画を観て、このボスニアヘルツェゴビナがどういう土地であるのかについて、少し知見がある人間ならば違う思いも去来しているはずだ

何故にこの地に米国やNATO軍がいるのか?
もちろんそれはこの地の民族紛争を見かねてのことで人道上として介入しているからだ
どちらの味方か?どちらの味方でもない?
そんな詭弁が現実に通じるのか?
そのそれぞれの民族に繋がりのある対抗勢力も介入するのは当然のことになるだろう
本作の敵方は皆ロシア製の兵器だ
単に戦争を大きくしているだけでは無いのか?
介入しているNATO軍の司令官はここから抜け出したくて自軍の兵士を見殺しにしようとまでしているではないか?
本作はこの矛盾をアクション映画の振りをして、実は描かれているのだ
それこそが本作のテーマだったのではないのか?と思ってしまうのだ

自国の紛争に他国の軍隊を引き入れてはこうなるという見本の国だ
100年経っても同じことの繰り返しだ
それは極東でも同じだ
朝鮮半島の安全保障を巡り、日本は今また100年前からやり直すことになりかねないのだ
そんな視線で本作を観れば、また違った味わいがあると思う

あき240