劇場公開日 2004年3月27日

エレファント : 映画評論・批評

2004年3月15日更新

2004年3月27日よりシネセゾン渋谷ほかにてロードショー

どこからか小さなノイズが聞こえてくる

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「ボウリング・フォー・コロンバイン」でも取り上げられた、コロンバイン高校での銃乱射事件。この映画はその事件を、数人の高校生たちそれぞれの視点から見た軌跡として描く。それらの軌跡は組み合わされることはなく、Aの視点の昼から夜まで、Bの視点の昼から夜までという風に、同じ時間が視点の数だけ何度も律儀に反復される。

通常の映画なら、決してやらないはずのその時間の反復のうちに、しかしそこでは具体的には語られていない何かが浮かび上がる。それぞれの視線の共鳴と言えばいいか。彼らの極めてパーソナルな独立した物語がどこかで共振し合い、小さな音を奏でる。この映画はそれらの共鳴音に耳を澄ましているようでもある。

だからこの映画は、事件の細部を暴きそこに因果関係を見ようとするジャーナリスティックな視線を持つことはない。そうではなく、ただひたすら、彼らの魂の共振を聞き取ろうとするだけだ。どこからか小さなノイズが聞こえてくる。現実にはその場で鳴っていないはずの音が、聞こえても来る。それらの幽かなアンサンブル。その微妙な震えの中で事件は起こり、そして今も震えは続いている。その幽かさに耳をすますことからでないと何も変わりはしないことを、この映画は世界に強く訴えているように思えた。

樋口泰人

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