「Oh baby,give me one more chance. 鉄人先輩、マジそいつシメちゃって下さいっ!💢」ドラムライン たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Oh baby,give me one more chance. 鉄人先輩、マジそいつシメちゃって下さいっ!💢
マーチングバンドの名門大学を舞台に、天才ドラマーとして鳴物入りで入学した青年デヴォンの挫折と成長を描く青春音楽映画。
デヴォンが一目惚れするチアリーダーのレイラを演じるのは、『センターステージ』のゾーイ・サルダナ。
音楽、熱血、青春!!
鬼教官との衝突、仲間たちとの友情、上級生との恋、そしてライバル校との対決!これ絶対好きなやつ〜♪…と初めは思っていたんだけど…。
実際、最初の30分くらいは非常に面白い!!
全米屈指の名門、アトランタA&T大学に入学したデヴォンと仲間たち。そこで彼らを待ち受けていたのは、『フルメタル・ジャケット』(1987)を彷彿とさせる地獄のような練習の日々。
”鉄人”と渾名される上級生ショーンと規律を重んじる教授リーによる厳しい指導の下、ひよっ子たちは絆を強めながら互いに成長していく。
前半はこの少年漫画のような王道ストーリーを非常によく描けている。マーチングバンドについて詳しく知らなかったので、これほどまでに厳しい練習をしなくてはいけないのかと驚嘆してしまった。完璧に体育会系じゃん💦確かに、重たい楽器を演奏しながら行進しないといけないんだから、このくらいハードな運動は必要なんだろうけど…。
雨の中での空気椅子とか、先輩が叱咤する中でのリズム練習とか、このコンプラ的にはアウトだがとにかく絵的な強さのあるトレーニング描写の数々が素晴らしく、否応なくこの世界にのめり込んでしまった。
ただ、主人公である天才ドラマー・デヴォンがとにかく生意気。そりゃまあ天才というのはえてして傲慢なものだし、バリバリの実力至上主義の世界を描いているんだからある程度はデヴォンの性格に目を瞑ることも出来るのだが、それにしたってこれは酷い😡
最初の方は規則に従って丸坊主になったり可愛いところもあったのだが、だんだんとそれも無くなってしまいただの嫌な奴になる。
おまえ授業はちゃんと受けろ!「なんで真面目に勉強しないの?」っていうレイラの疑問は最もである。実はディスレクシアだったとかそういう事情があるのかと思ったら普通にやりたくないだけだった…って、なんじゃコイツ!?
基本的にはデヴォンが全面的に悪いのにもかかわらず周囲の人間、鉄人先輩やリー教授、GFのレイラなんかが彼にめっちゃ甘いのも気になる。この手の物語の定型通り、デヴォンも最終的には成長し周囲に受け入れられるのだが、何しろ周りが甘いため「デヴォンお前本当にわかってんのか!?」という気持ちになっちゃう。ソイツチーム裏切ってライバル校に行こうとしてたんだぞ!?
もう少し周囲が彼に厳しかったら、そしてデヴォンの反省をもっと丁寧に描いていたら全体の印象はまた違うものになっていたことだろう。
デヴォンと鉄人先輩の対立の描き方もヌルいが、特に気になったのはリー教授の扱い。
古いスタイルに拘るがあまり、ポピュラー音楽を柔軟に取り入れるモーリス・ブラウン大学に遅れをとっている、というのがアトランタA&T大学の現状。
最終的にはリー教授が考えを改め、古いスタイルと新しいスタイルを折衷させることによりバンドを勝利に導く訳だが、なぜ彼が古いスタイルに拘っていたのか、そしてなぜ考えを改めたのかについての描き込みが足りないため、ただ自分がクビになるのが怖かっただけじゃないかと思えてしまう。
厳しいだけではないリー教授の人となりにはとても好感が持てたので、もっと彼のバックボーンを教えて欲しかった。
そして本作一番の問題は、肝心要のマーチングバンド描写が退屈だということ。
始めの方こそ「おー!マーチングバンドって迫力あんじゃん!」なんて思っていたけど、映し方が一本調子な為だんだんと飽きてきちゃう。
もう一つ言うと、正統派な主人公チームよりラッパーとコラボする軟派なライバルチームの方が観ていて退屈しなかった。今回もこっちが優勝で良かったんでないかい?…まぁ大学対抗の大会でプロの人気ラッパー連れてくるっていうのは普通に反則じゃないの?とは思ったけど。これがありならプロのミュージシャンを助っ人として参加させるのもアリになっちゃうじゃんね?
クライマックスのドラムライン同士のバトルというのは確かにアガった。ヒップホップのフリースタイルバトルみたいな感じでカッコ良い✨
カッコいいんだけどさ〜。これマーチングバンドあんまり関係ないんじゃない?大会の決着がドラムラインで決まるなんて、チューバとかトランペットとかの管楽器奏者が可哀想。
ドラム対決だけで決着が着くんだったら、主人公がストリートのドラマーだって良かった訳で、マーチングバンド物語にした意味がない。
クライマックスもきっちりマーチングバンドでケリをつけて欲しかったところである。
デヴォンの仲間たちは出番こそ少なかったがなかなか魅力的なキャラクターが揃っていた。特に唯一の白人プレイヤーであるジェイソン・フロアくんなんかとっても良いキャラ。フロアを主人公にした番外編だったら観てみたいかも。
もう少しチームものとしての面白さを深く追及していたら、もっと好感の持てる映画になっていたと思う。
好きなジャンル&好きな温度感の映画だったし、若き日のゾーイ・サルダナを観ることも出来たし、全てがダメって訳ではないんだけど、期待値を上回ることはなかったというのが正直な感想。もっとハマると思ってたのにな〜…。
余談だが、ドラマーが主人公だったりスパルタ指導が描かれたりと、かなり『セッション』(2014)を思い出させる映画だった。もしかしたらチャゼル監督はこの映画から影響を受けたのかも。
『セッション』がお好きな方は、本作と見比べてみると新たな発見があったりなかったりするかも知れません。