「キューブリックが傑作というほどではないと思った」ザ・バニシング 消失 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
キューブリックが傑作というほどではないと思った
うーん、最も恐ろしい映画というほどではない。
というか、じわじわと苦しめられ命の危険を感じるような分かりやすい〈怖さ〉は全く無かった。
80年代の映画の割にはカメラワークも映像の質感もチープだし、全体的な雰囲気が昼ドラ。
最初から犯人視点で物語が展開されるというのも怖さが半減した要因。殺人鬼の犯行の手順が余りに稚拙過ぎて、途中からただのコメディかと思った(笑)
ただ、「謎」について「知りたい」という人間の欲求、またはそれにより生じる苦しみを改めて考えさせられた映画ではあった。
また、一見社会的に成功した人物がサイコパスであった場合、それをどうやって人に知らしめればいいのか?という疑問もわく。
以前、監禁された少女の事件を思い出す。10代の女性が犯人のいない隙に外に出て公園にいる女性に助けを求めたら、「力になれない」と言われ、絶望してどこに行けばいいかわからなくて、結局また部屋に戻ってしまったという(再び意を決して逃げ出したが)。
助けを求められたほうは、少女を「頭のおかしい子」だと思ったのだろうか。
例えばレックスが車中から沿道の人に「こいつは殺人鬼なんだ!」と訴えても、変な目で見られるだけだろう。
そういった意味での〈怖さ〉は感じた。
とはいえ、レックスは早々に、サスキアも自分も生きて帰されることは無いと悟り、車を降りて警察に「犯人だと名乗る者が接触してきた」と通報すればよかったのに。殺人鬼の横で睡眠薬を飲むなんて、手の内で転がされるにも程がある。
ラストは、閉所恐怖症だと話していた犯人が、あえて自分が恐怖する行為を獲物に与えたというところだろうか。
近年なら『ゴーン・ガール』『アメリカン・サイコ』など、いくらでも傑作はある。わざわざこの映画を見に行く必要はない。
古い映画でも、ヒッチコックや『何がジェーンに起こったか』など名作はいくらでもある。
自分の気づかない視点があるかもしれないので、墓から叩き起こしてキューブリックに「どこが怖かったのか」と問うてみたい気持ちになった。
あ、犯人が「サスキアをレイプしたのか?」と聞かれて馬鹿にするな!と逆ギレしたときはこいつやばいな、とは思ったけどね。