「一人にしないで」ザ・バニシング 消失 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
一人にしないで
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置いて行かないで、一人にしないで。
ガス欠の際のサスキアのセリフが最後に効いてくる。
二枚のコインの隠喩が悲しい。
美しく素敵でいつも優しいサスキアとずっと一緒にいるって約束したじゃない。
死んでいてもいいから、ただ一人ポッカリと消えないで。何があったか教えて。
何もわからないまま愛する人を失って3年。
新しい道を選ぼうとしても囚われから逃れられない。
いくら時があり過ぎようと未だにあのパーキングに閉じ込められたレックスの決死の覚悟に感動と恐れを抱いた。
すぐ側に居た恐怖と真っ向から対面しなければならないストレス。
目の前に犯人がいるのに殺すことができない弱み。
尋常じゃない緊張感で体がびりびりしながら観ていた。
犯人の描写が多く、厭なことに私はその魅力に強く惹かれてしまった。
これがサイコパスというものか!とひしひしと感じる。
自らの目的のために入念に計画と練習とテストを重ねる姿がなんだか可愛らしい。
ハンカチ重ねて置くの大好き。
常に微笑をたたえた表情が気持ち悪いのになぜだかとてもチャーミングで素敵な人に見えてしまうのはなぜだろう。
彼の家族が心から愛し合っている様子も納得がいく。
悲鳴のシーンがめちゃくちゃ好き。もうこの家族が愛しくてたまらない。
プレゼントのシーンも暖かくて素敵だし、余計にレイモンの隠れた異常さが引き立っている気がする。
この調子だとたぶん私も車に乗ってしまうコースだな…気をつけないと。
飛び降りないのが”当然”だなんて誰が決めた?
飲まないのが”当然”だなんて誰が決めた?
逃れるためには、知るためには、やるしかない。
呆気ない結果も望んだこと。
生き埋めだなんて本当に嫌だ。
性欲だとか拷問だとか、そういう分かりやすい欲望ではなくただただ厳しい最期を突然与えるだけの殺人ってなんなんだろう。
ライターで箱を燃やしたって自分にも火がついてしまうし、逃げ場ゼロ。考えるだけで息が止まる。
思うのが、この映画の結末は結果的に見ればバッドエンドだけど精神的に考えればハッピーエンドととらえることもできるんじゃないかということ。
夢の話や喧嘩のとき、イチャイチャの途中でしきりに言っていた「一人にしないで」という言葉通り、サスキアの許にレックスはやってきてくれた。
一人で膨大な恐怖と苦しみに襲われ寂しく死にゆきずっと一人地中に沈んでいたサスキアの許に、やっとレックスがやってきてくれた。
木の下に埋められた二枚のコインのように二人は寄り添って埋まっているんだなと思うと、ものすごく悲しいのに少し救いがある気がする。
死後の世界がもしあるなら、サスキアはちょっと嬉しいんじゃないかな。
自分本位で考えるなら、遺された恋人の新しい幸せよりも自分を選んでくれたことが嬉しいんじゃないか。なんて思ってしまう。
粋というか悪趣味というか、あの水筒から注がれたコーヒーを劇場で売っていたので私も飲んだ。真実を知るために。
レックスと同じタイミングでがぶっと飲めたのがとてもうれしい。
コーヒーが苦手だから頭痛くなったし美味しくもなかったけど、すごく良い映画体験ができたと思う。
アイリッシュコーヒーだったので少しウイスキーが入っていて、ほんのりホロ酔いになれて素敵だった。