トンマッコルへようこそ : 映画評論・批評
2006年10月24日更新
2006年10月26日よりシネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー
ビジュアル面での豊かさによって現実的な指向を持った寓話として成立
韓国映画がパワフルである理由のひとつに、政治的・歴史的な緊張構造がいまだ厳然と存在するという事実があるのは疑いのないところだろう。昨年韓国で記録的な動員となった本作にも、そうしたシビアな情勢ははっきり反映されている。
地上の争いから隔絶され、まさにユートピア然としたこの地に迷いこんでくるのは、地上的混乱とイデオロギー対立の縮図というべき韓国軍・北朝鮮軍・アメリカ軍の三者。展開される対立と融和の物語は、ファンタジーの味つけがされているとはいえ生々しくさえある。しかし、それが生半なものとならず、きわめて現実的な指向を持った寓話として成立しえたのは、ビジュアル面での圧倒的な豊かさに因るところが大きい。
偵察機、ポップコーンの雪、落下傘部隊、爆弾、そして無数の蝶々といった「空からの落下~飛翔」のイメージが要所で繰り返され効果的。これが「天空=理想」と「地上=現実」のあいだにあるユートピア……たとえば「太陽政策」とか「南北融和」といった問題に対する回答として、トンマッコルをリアルたらしめているのだ。
実力派シン・ハギュン、チョン・ジェヨンも交えた兵士たちのアンサンブルもいいが、村の象徴的存在であるカン・ヘジョンの妖精ぶりが可愛い。久石譲の音楽も近年のベスト。
(ミルクマン斉藤)