劇場公開日 2003年6月28日

「編集でのリズム」シティ・オブ・ゴッド Editing Tell Usさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0編集でのリズム

2019年2月1日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ハリウッドみたいな超巨額予算じゃなくても、こんなに心を動かす作品は作れる!
ブラジル映画で最も有名な作品、映画の教科書のような巣tレオタイプな概念にとらわれない手法が完璧にはまっている作品。何を伝えたいのか、何をフレームにおさめたいのかが明確でリアルを切り出すことに尽力したことがうかがえる。決して、観やすい作品では二が、観始めるとキャラクターたちの行方に他人事にはなれない気分になる。

編集
この映画といえば編集。ドキュメンタリータッチな撮影を利用した、カットのチョイス、リズムの作り方、音楽のチョイスはえげつない。
まず、この作品にはメインキャラクターのロケットという少年がいるが、各セクションでロケット以外のキャラクターがメインとなり、ストーリーが進んでいくところがこの映画のすごいところだし、編集するには難しかったであろうところ。しかし、キャラクターアークが完璧で、キャラクターと視聴者の距離を映画を通してコントロールしていた。ブラジルのスラムの中での少年ギャング達の物語であるが、ギャングの一面と少年の一面でその距離を生み出していた。笑顔で銃を放ったり、すごいスピードで薬物がお金に変わっていくところでは、視聴者は彼らを悪者ととる。キャラクターと視聴者の距離は遠い。一方で、ギャングの中にも、心優しいやつ、自分の好きなことを心から愛するやつ、周りで起きていることについていけずに怯えているやつなど、人間らしい奴らがいる。その子たちも命の危険にさらされる。そのとき視聴者は、その子達へと感情移入する。「殺されないでほしい、逃げないでほしい、夢を叶えて欲しい」と。この映画のすごいところは、それが映画の中で入れ替わるということ。逃げられない状況、周りの影響などで、ギャングの色へと染められてしまう少年や、嫉妬、友情、慈悲から急に少年の心を持つギャングなど、そこがあるからここまで多くのキャラクターを理解できるし、愛し、感情移入することができる。その移り変わりには常に死が付きまとってくるから、この作品のテーマだったり、伝えたいことがキャラクターを通して伝わってくる。
リズムの作り方は、オープニングから爆発している。1つ目のシーンでこの映画の多くが伝わってくる。時代や場所、テーマなど。さらに、これまでの常識を無視した、ブラックフレームの使い方。それが写真という主人公の趣味へと繋がっていく。キャラクターの心情が一番伝わるならば、正しい方法というものはない。特にクラブでのシーンはすごかった。4つの視点がだんだんと近づいていき、クラブミュージックの店舗なのに、時間を引き延ばした編集は圧巻。あれは簡単じゃないと思った。

撮影
だからフィルムの見た目が好きだ。黒人という被写体、日差しの強い外というロケーション、スラムという環境。シネマとグラファーにとってみればなんとも難しくお金のかかりそうな状況。ダイナミックレンジ20ぐらいいるんじゃないかというほど、コントラストの強い状況、これをデジタルで撮影するとなると、ホームビデオのような感じが出るか、めちゃめちゃお金かけてやるかのどちらかだろう。今作のフィルムでの撮影はその全てを武器に変えた。コントラストをあえて残し、室内でのシャドーと太陽光のハイライトはクリップしている。しかし、フィルムだから、クリップというよりも人間の目に近い感覚。言葉で表現するのは難しいのだが、クリップして潰しているというよりも、あふれているという感じかな?ビット深度がデジタルカメラとは比べ物にならないのだろう。だから、リアルに見れる。情報が失われている感覚はなく、その照明から現地の状況を感じられるような感覚。
次にカメラの動き。基本的に本作は、ハンドヘルドで撮影されているのだが、動きまくるフレームには確実にそのショットで伝えたい表情やもの、動きが捉えられている。だから、こんなにリズミカルな編集であっても、ストーリーは前に進むし、キャラクターアークは描かれていく。特に最初のパートは多くのキャラクターが出てきて、我々外国人からしてみると混乱しかねない部分ではあるが、各キャラクターのキーとなるものや象徴的な言動を確実にフレームにおさめることで、誰のシーンなのかということを瞬時に伝えさらにはスピード感の出るハンドヘルドでリズムを作っている。

このように、演技、撮影、編集がそれぞれ完璧じゃなくても、同じメッセージや目線を持ってくるからこそ、各部門のクリエイティビティが相乗的に覚醒したのだろう。

Editing Tell Us