「歯医者にはすぐ行こう。時の残酷さ。」キャスト・アウェイ movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
歯医者にはすぐ行こう。時の残酷さ。
秀逸なタイトル。
漂流し、恐怖心や自死念慮を捨て去り、生還すれば大切な人の想い出として諦められていた。
恵まれた国で人生でこんな難儀を味わう人はごくわずかとは思うが、戦争紛争に巻き込まれ兵役や難民や亡命となれば似たような苦しみのさなかにいる人も世界には沢山いる。
それでも、人生には極力起こらない映像の中の事であって欲しいと思わずにはいられない。
大好きな人ケリーと結婚間近で、時間に忠実な仕事人間だったチャックが、Fedex勤務中に飛行機事故に巻き込まれ、一転、無人島の住民に。
怪我も日焼けもしながら、雨よけ、水分確保、火起こし、食料確保と様々知恵を身につけ4年間の歳月を過ごし、ついに筏を完成させて脱出を試みるわけだが、無事に生還してみれば。
戻ったメンフィスでは簡単にチャッカマンで火が付く。無人島でより大ぶりなカニはお皿にごろごろ並んでいる。
ケリーはよりによって歯医者スポルディングの知り合いの歯科医と家庭を築き小さな子供も産まれている。
宅配業ゆえに時間にあれだけうるさかったチャックが、唯一延期癖があった歯医者。
そのせいで無人島では歯が痛みスケート靴の歯と石で歯をもぎ取る羽目になったし、よりによって歯医者とケリーが結婚するなんて。
本当に皮肉なものである。
壊れた懐中時計のケリーの写真と、バレーボールのウィルソンを見てなんとか生き延びてきた4年間の絶望と小さな希望の繰り返しと、自然における人間の技術や身体のちっぽけさを突きつけられる作品。
枝を裂いて、それを編んで作るそのロープで、
首を括って死ぬか、生きる筏を作るのか。
事前テストで死ねないとわかったチャックは生きる方に方向転換できたが、そこには漂着してきたfedexの荷物のひとつに付いていた天使の羽のマークの存在も大きかった。
他の漂着荷物は、しばらく保管したのち、背に腹は変えられず、開封して無人島で生き延びる様々な道具として使うが、天使の羽の荷物だけは開封しなかった。中身が何かはチャックにはわからずじまい。
だが、その荷物の送り先ベッティーナが、最初のシーンでは、メンフィスからロシアにいる夫宛に荷物を送っている。天使の羽のマークの工房を夫婦で営んでいるようだったが、届いた先のロシアでは夫は浮気中で愛人と荷物を受け取る。
四年経って、生還したチャックが荷物をベッティーナに届けてみれば、工房の名前はベッティーナ単独に変わっていて、夫ではなく犬が増えていた。
時は、愛をも裂いてしまう。
歯もだめにしてしまう。
時間を本当に刻んでいたチャックは正しかったのだとわかる。
でも、時間を守ることだけでなく、何に大切な時間を使うのか。
クリスマスにケリーを置いてまで、仕事に行くべきだったのか?
ケリーはチャックが遭難したために、夢だった学者に近づくための論文発表の場に行かれなかった。
一瞬の、ほんの少しの決断が、人生のなにに時間を費やすかまで、自分のことも人のことも変えてしまう。
時間は、1分1秒を争い守ることよりも、大切な物事人との時間を大切にするということなのだと、チャックの気持ちを通してよくよく学ぶことができた作品。