劇場公開日 2023年7月28日

「レスリー・チャンの美しさと儚さが時代に蘇る」さらば、わが愛 覇王別姫 AZUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5レスリー・チャンの美しさと儚さが時代に蘇る

2025年7月22日
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鑑賞方法:映画館

激動の日中戦争前から文化大革命後の50年に及ぶ中国の歴史と共に、蝶衣(小豆)・小樓(石頭)・菊仙の3人の男女の愛憎劇が見事に絡み合って、あっという間の3時間だった。

文化大革命が終わった18年後に作られた作品とは思えないほど、中国の歴史を変に脚色せずに描いているところに驚いた。(あちらは色々と厳しいと思っていたので…)
日中戦争あたりでの日本の描き方も大袈裟に悪く描くこともなく、すごく平等な目線で描かれた作品だからこそ、変な作り手の思想や雑念が入らず、最後まで集中して見ることができたのはすごく良かった。

それにしても最初から最後まで、蝶衣のあの儚さといったらなんなのだろう。
幸薄いオーラが始終まとわりついていて、幸せになれる気が1ミリもしない。でも、だからこそ、彼の圧倒的な美しさが際立つ。何度も劇中でアップになる彼の表情に、眼差しに見惚れてしまう。魅了されてしまう。あー幸せなって欲しい!と思う。でも彼はきっと幸せになれないだろうなと思いながら見る。
彼そのものである蝶衣を取ったら何も残らないし、彼の信念や小樓を想う愛を無くさせてしまったら、きっとそれはもう彼じゃなくなるからだ。

だから、最後は正直ホッとしてしまった。
やっと彼は役から解放され、小豆になれたのかなと思うと幸せすら感じた。

権力者が変わるだけで、思想やモノの価値がコロコロと簡単に変わってしまう。そんな世の中では、蝶衣のように一貫して時代に沿わずに自分の生き方を貫く人は、とても生きづらく、時代によって浮いたり沈んだりと、苦しい人生だったと思う。
逆に小樓のような簡単に相手に合わせて主張を変えてしまう人の方が、世渡り上手で生き残るのかもしれないなと思った。人間としては全く尊敬できないし、何でこんな奴をそこまで蝶衣は愛するの?と不思議で仕方なかったけど…。

最後に、令和の時代にスクリーンで4K版で見ることができることに、現代の技術の進歩に感謝したい。
おかげで、京劇の煌びやかな美しさ色彩の衣装や化粧、レスリー・チャンの美しさと儚さが時代を超えて蘇るようだった。

AZU
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