劇場公開日 2023年7月28日

  • 予告編を見る

「舞台での史上の愛は虚構か否か」さらば、わが愛 覇王別姫 Jaxさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5舞台での史上の愛は虚構か否か

2023年9月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

軽い気持ちで観に行ったらどえらいものを観てしまった。3時間があっという間でエンドロールが終わってもすぐに椅子から立つことができない。
レスリー・チャンが人間離れした美しさで息を呑んだ。

盧溝橋事件から文革までの時代背景がわかると理解が深まるだろう。「四面楚歌」などの古事の由来も。
生き抜くために権力者に媚びようにもこれだけ為政者がころころ変わるなかで、昨日の権力者が今日の囚人、今日の仲間が明日の裏切り者となりどこまでも翻弄される運命の厳しさよ。

少年たちにほぼ虐待のような訓練や性接待をさせる京劇の世界と、出世してそれを内面化する蝶衣の胸中を思う。

昔、舞台上で恋人たちの役を演じたことがある。相手役が自分に向ける目線が愛する人に向けるそのもので、舞台を降りてこらまたその目を向けられたいと思っても、そこには演じていた役者がいるだけで二度と会えないことを知って寂しくなったものだ。

例え虚構とわかっていても、舞台で史上の愛を知ると現実に帰れないことがある。だがその全てが虚構だったのか。確かにそこには妻であっても、他の何者であっても介在できない関係が存在していたのではないか。

ラストの小楼が蝶衣に向ける目線からそんなことを思う。

Jax