「美しくて残酷」さらば、わが愛 覇王別姫 ケロケロケロッピさんの映画レビュー(感想・評価)
美しくて残酷
こんなに美しくて残酷な物語、滅多に出会えない。
とにかくレスリーチャンの美しさが終始とんでもないことになっている。舞台上でも日常でも、所作や表情のひとつひとつに虞姫が宿ってしまっているし、小樓(大王)への思いはずっと消えない。これが彼の名役者たる所以でもあり、悲劇でもある。
盧溝橋事件や日本降伏、共産党政権樹立に文化大革命と、中国の激動の時代に翻弄される様が本当に悲しい。
いつだって同じ京劇を美しく壮麗に演じているだけなのに、最前列の観客が誰か、劇場の外で何が起こっているかによって、思うように芝居ができない。そのもどかしさや悔しさ。
序盤から色んな意味で目を覆いたくなるシーンが続くけれど、なかでも終盤の文革のシーンは壮絶。これまでどんなときも歯を食いしばって支え合ってきたはずなのに、暴言を吐き合ってしまう。炎越しで見切れつつもチラッと映る蝶衣の悲しげな表情が何とも言えない。その中で小楼は絶対に超えては行けない一線を超えてしまい、取り返しのつかない結果になってしまったときの半狂乱で後悔する場面も辛い。
時代に翻弄され、11年ぶりに会えた2人の最後の舞台でやっと本当の虞姫になれた蝶衣(小豆)を見つめる小樓の笑顔、ぐっと来る。
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