「家族と運命と」ブレイブ ストーリー pearlboyfriendさんの映画レビュー(感想・評価)
家族と運命と
レンタル店でふとDVDパッケージを目にして、借りて観てみた。
「ブレイブストーリー」。前々から書店や図書館でその名をなんとなくは知っていたのだが、なんせ厚そうな本だったし、少し敬遠していた。それが映画にもなっていたとは知らなかった。ありがたく観させていただいた。
普通の小学生であるワタル。あくまで「普通」の少年が「普通」の生活を送る日常。幸せだ。しかし両親の離婚、そして母親のガス中毒。少年の日常は次第に崩壊していく、そしてミツルを追ってヴィジョンへと引き込まれてゆく・・・
作品中に、「運命」という言葉が散りばめられている。少年は自分の現実世界でのなりゆきを運命として捉え、見知らぬ声に導かれ運命を変えようとする。こんなはずじゃなかった、こんな運命なんて嫌だ、と。
少年がヴィジョンに赴くまでの経緯が少し乱雑な印象を受けた。上に述べたように、あくまで普通の少年の日常がすこしずつほころび、しだいに自分ではどうしようもない力の存在を知る。それが運命なんだ!きっとワタルは自分ではどうしようもないモノの存在を感じたのだろう。だからこそのヴィジョンなんだから。そこのところの情景をもう少し丁寧に描いてほしかった。
ヴィジョンに入ってから。「勇者レベル」とかは少し幼稚な気がした。まぁ「勇者」が「冒険」を始めるのだから、最初の試練といったところか。それにしてもRPG感が否めない。あくまでワタルは家族のことの願いを叶えたくてヴィジョンに来ているのだから、単純に笑顔で楽しんでいるだけの描写では味気なくなってしまうだろう。5つの玉を集める旅の途中もひとつにくくられてしまっていて荒っぽさを感じた。ワタルは決して「遊び」でヴィジョンに来ているわけではない。時には倒れた母親、出て行った父親のことを思い出してやり場の無い焦りを感じるときもあっただろう。ヴィジョンについての説明ももう少し欲しかった。やっぱり上映時間の関係なんだろうか。少し残念だ。
しかしワタルとミツルの内面(過去の思い出)を回想するところはすばらしい。特に後半、希望の塔に登るときの、分身した自分自身がお互いにぶつかりあう場面は思わず引き込まれた。自己との対話。利己的な自分と、あくまで理性的でいようとする自分との葛藤。そして「おかえり」とやさしくもう一人の自分を受け入れるワタル。思わずぐっときた。ここでワタルは初めて運命を受け入れる覚悟を決めたのだろう。それだけの心の広さと優しさをワタルは持っている。それだけで心が温かくなった瞬間だった。
ヴィジョンの世界が平和になること、それがワタルの願いだったわけだが、それは決してそう「すべき」だからした、というものではなく、同時に自分自身とも決着をつけているんだな、と感じた。
ワタルは「勇者」であったとともに、「優者」でもあったというわけである。
ミツルははやりどこか間違っていたみたいだ。だが最後にはきちんと気付いてくれていたので安心した。悲しい過去があるからこそ、幼い妹を愛していたからこそのヴィジョンだったのに。
現実世界に戻った後、結局現実は何も変わっていなかった。ワタルの父親は戻ってこない、ミツルのいない。だが、ワタルは運命を受け入れ、きちんと折り合いをつけることができたようだ。
そして最後、ミツルとの再会。あぁ、その場面で切っちゃうのは本当に惜しい。あと10秒ながくしてくれればいいのに。泣きたかったなー。
運命を受け入れ、これからも暮らし続ける。そういった意味で、ぼくたちが暮らす現実世界も、またヴィジュアルではないだろうか。