「善人でありたいとするボーンの苦悩を描く」ボーン・スプレマシー マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
善人でありたいとするボーンの苦悩を描く
ジェイソン・ボーンとは何者かというミステリアスな要素を含んだスパイの話を、生身のアクションとリアルな展開で描いてみせた前作のクォリティをそのままに、内容はさらに過激さを増し、登場人物にも幅が出てきた。
前作であれほど頑張ったマリーがあっけなく死んでしまうが、その元凶となる男が元でボーンとCIAが互いに探り合うという導入部が巧妙だ。
カール・アーバンが、物言わず“仕事”をこなす殺し屋キリルを絶妙に演じる。前作のファンが愛するマリーを殺した極悪人として、観客の憎悪を一身に受けることになる。
その結果、ジョアン・アレン演じるCIA特殊任務チーフのパメラ・ランディは、物事を落ち着いて分析する洞察力から、単純にボーンの敵とはいえない立ち位置と判断することができ、ランディという人物に対する好感を生む。
また、マリーに代わるヒロインもなんとなく浮かび上がる。前作ではコンクリンの指示で電話盗聴をさせられていたCIAパリ支局員だったニッキーだ。なんとなくというところがいいのだ。ジュリア・スタイルズの出番を自然に増やし、さりげなく目立たせた。それだけで彼女の魅力が増して見える。女優としての潜在能力が高い証拠だ。
アクションの見せ場は、モスクワでの2つの逃走劇だ。
ひとつは足を使った逃走で、このシリーズならではの生身のアクションが味わえる。
もうひとつは、初めて見るモスクワでのカーチェイス。前作はパリの地形を利用した「ブリット」(68)的なカーチェイスだったが、今回は道幅も広くロケーションを活かしたカメラ位置で、3つ巴の追っかけを見せてくれる。
今回ばかりは、このモスクワを逃げ切れるものではないと思いながら見てしまった。
凄まじいカーチェイスも地下道でクライマックスを迎えるが、ボーンは殺し屋キリルにとどめを刺さない。「これ以上、殺さないで」という亡きマリーの言葉がボーンの心を占めている証で、ぽっかり開いた地下道の出口に向かって歩き出すボーンの姿は、暗殺者という過去から前に向かって歩み出したことを意味する大事なシーンだ。
暗殺者という過去を背負いながら善人でありたいとするボーンの苦悩を描いた2作目。ラスト、モスクワに来た真の目的が明かされる。