「要点はシンプルだが大胆な仕掛けが潜むスパイ・サスペンス」ボーン・アイデンティティー マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
要点はシンプルだが大胆な仕掛けが潜むスパイ・サスペンス
主人公が負傷して海に漂っているシーンから始まる。漁船に助けられるが記憶を完全に失っている。たった一つの手掛かりを、皮膚の下に埋め込んだマイクロカプセルに仕込んだオープニングは、要点はシンプルだが、これまでのスパイ・サスペンス映画とは一味違う大胆な仕掛けが潜む。
たった一つの手掛かりを頼りに男はスイスへ向かう。本人はもちろん、観客も彼の名をまだ知らない。
何も思い出せない男の身に、その命を狙う者たちの手が伸び始める。それを指示している組織がCIAであることを明かしていくストーリー運びが実に巧妙だ。
記憶はないが、男は徐々に自分に秘められた判断能力と戦闘能力を知る。見ていて、この先どうなるのかとウズウズする。
行きずりの女とスイスを脱出するあたりは、よくあるパターンだが、マリーをフランカ・ポテンテが目立たず騒がずの演技で、作品のリアリティさは失っていない。
むしろ、訓練された戦闘能力がある男と一般女性が組む逃亡劇をここまでクールに描いた作品は珍しいのではないか。
やがて、ジョン・マイケル・ケインという名、トレッドストーン(捨て石)計画、サイモン・ローリング社といったキーワードが連なって1本の線になったとき、男は自分の正体のほんの一部を垣間見ることになる。それでも男が衝撃を受けるには充分なものだ。
そして、男の名はジェイソン・ボーン。
CIAが二度と自分を追わないよう直属の上司だったコンクリンに会うためパリに戻るクライマックスは、ボーンが頭脳明晰であることを最もよく証明していて、そのポテンシャルの高さに改めて魅力を感じる。
決して男前ではないが、頭がキレて咄嗟の事態に機敏に動き、殺人者でありながら人間性を持つボーンにマット・デイモンがなりきっている。
緊張から開放してくれる甘い結末にホッとする。