「主人公たちは魅力的だが…」処刑人 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公たちは魅力的だが…
◯作品全体
物語の導入は、宗教や辛い過去の記憶。重々しい雰囲気の教会から外に出た途端、軽快なBGMが流れ始めるのは呆気にとられたが、そのあとは一貫してシンプルな勧善懲悪の物語だった。
敵・見方の構造がわかりやすい分、「わかりやすすぎる」部分が少し気になった。例えばマクマナス兄弟の正義心がまったくブレない部分。それが二人の持ち味といえばそうなのだが、悪者を殺していくことに立ち止まることが一切なくて、自分たちのしていることは正しい、で終わってしまう行動原理の「わかりやすさ」があった。一方でFBI捜査官のポールは正義のあり方に悩んでいたり、エンドロールでは街の人々が正義の在りかをめぐって衝突している。マクマナス兄弟が目指した正義によって周りの人々が混乱しているのだが、それを意に介さないマクマナス兄弟は、少し突拍子のない存在に見えた。
ポールの回想によって事件の真相が見えてくる構成は、最初はすごく面白かったが、中盤には結果が先に見えてしまって、オチが先読みできてしまう「わかりやすすぎる」があった。ただ、回想とともにポールが暴れまわる後半の演出はとってもよかった。ああいうバリエーションがもっと見たかった気がする。
マクマナス兄弟だけの空間はキャラクターの魅力が際立っていて面白かった。神に忠実な二人の宗教観が織りなす会話劇や、二人の絆を感じるアクションシーンは見ごたえがあった。冒頭の屋上から便器を落とすシーンも、劇伴の使い方とスローモーションが二人の息の合った動きを巧く演出していた。中盤で仲間に加わるロッコの存在も、二人の空間に巧く別のベクトルを加えているのが、また良い。
ただ、ドゥーチェと共に戦うラストはかなり唐突だったし、マクマナス兄弟のコンビを捨ててしまうのはもったいないと感じた。法廷で演説するよりもドゥーチェとイタリアマフィアに対して、彼らなりの制裁で終わらせてほしかった気がした。
物語としては「わかりやすすぎる」のだが、マクマナス兄弟のキャラクターとしての魅力は素晴らしかった。だからこそ、物語の物足りなさや、終盤の展開は少し残念だった。
◯カメラワークとか
・俯瞰とあおりのカットが多い。最初の便器落とすところとか懺悔室、ロッコが喫茶店の店主を撃つところ、ドゥーチェが牢屋から出てくるところ、法廷から出てきた女の人へ群がるマスコミのカット。神の目線とそれを見上げる目線、というような。
◯その他
・劇伴がとっても良かった。映像との音合わせも気持ちいい。調べてみたらちゃんとしたサントラ出てなさそうで残念。
・ウィレム・デフォーで遊びすぎてる感はちょっとあった。女装シーンはギャグすぎる。作品自体が緩めのリアリティラインだけど、そのさらに上を行く緩さだった。