ビューティフル・ボーイ(2003) : 映画評論・批評
2005年10月11日更新
2005年10月15日よりシネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー
キワモノ系でもスポ根でもない、ものすごく真っ当な伝記映画
タイの格闘技、ムエタイの世界に、化粧をして闘うオカマのボクサーがいた。数年前には日本でも試合をし、好奇の目を集めた彼(現在は彼女)、パリンヤー・ジャルーンポン。その半生を描いた映画はキワモノ系でも単なるスポ根ものでもない、ものすごく真っ当な伝記映画だ。
ノン・トゥム(パリンヤーの通称)の人生は、苦難と葛藤の連続である。家族を貧しさから救うため「男の世界」で闘いながら、心はまぎれもなく「女の子」なのだ。貧しかった幼い頃の苦労から、ムエタイ選手としての厳しい訓練、差別や偏見との闘い、内なる自分との闘い。そのすべてと真摯に向き合うトゥムの内面と勇気を、映画は丁寧に、美しくも力のある映像であぶり出していく。
モデル自身が絡んでいるだけにエピソードが長く、ウェットになりがちなところは気になるが、それを救っているのが人情劇としての説得力と、主演、アッサニー・スワンの魅力。実際にムエタイの達人である彼はいわゆる美形ではないものの、その闘いっぷり、「女の子」になりきる本気の演技はまさにビューティフル。「リトル・ダンサー」や「遠い空の向こうに」などと同じく、「がんばる者は美しい」というメッセージをストレートに感じさせてくれる。
(若林ゆり)