劇場公開日 2006年7月1日

美しい人 : 映画評論・批評

2006年7月4日更新

2006年7月1日よりBunkamuraル・シネマにてロードショー

9人の人生の凝縮された瞬間を描写

画像1

「人々が銀行強盗をしたり、ライオンを殺しに出かけたりすることには興味がない」と、マルケスの息子は言う。監督ロドリゴ・ガルシアは、文豪の父が築いたような神話的世界とは対照的な、ごく普通の庶民の何気ない日常の断片を、あたかも1冊の短編集のように紡ぎ合わせる。国際的評価を得たデビュー作「彼女を見ればわかること」しかり、この「美しい人」しかり。

“Nine Lives”という原題を持つ本作は、9人の女優たちによって演じられる9つの物語。それぞれワンシーン・ワンショットで撮られ、ある女性の人生におけるある瞬間がリアルタイムで凝視される。刑務所に服役中の母親、昔の恋人に再会して心揺れる人妻、父との愛憎に引き裂かれる娘……人種も階層も異なる女性たちの9つの“生”。ありふれた、けれども本人たちにとっては一生に一度の忘れがたい、ある瞬間。そこに彼女たちの凝縮された人生が映しだされ、それぞれの痛みや迷いに見る側も思いを重ね合わせる。

この写実主義のスケッチ集は、しかし、最後に意外な一枚を隠している。木洩れ日の下、生と死がふと交錯するその瞬間、マルケスの息子は父とは違うやり方で日常に潜む“マジック”を見せてくれるのだ。

田畑裕美

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「美しい人」の作品トップへ