「デ・パルマの最高傑作!」殺しのドレス kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
デ・パルマの最高傑作!
My Favorite Movie「殺しのドレス」が遂にBlu-ray化。
4Kレストア版で。
公開時にカット修正された映像がレストアされているが、特典映像で修復前後比較があって面白い。
感涙ものだ。
特典映像のインタビューは2012年のものだが、キース・ゴードンの老け方にはビックリ。
私の一つ歳上。
彼は、これはフェミニスト映画なのにそれが理解されなかった、と残念がっていた。
何度も何度もこの映画は観たけれど、やっぱり素晴らしい。
美術館のシーンはデ・パルマの仕事の中で最も多くの賛辞を得たのではないだろうか。
しかし一方で、冒頭のボディダブルによるシャワーシーンやエレベーターでの惨殺シーンは批判すら受けている。
ヒッチコックの下品な模倣というわけだ。
ヒッチコキアンから批判されるのは、女性に対するサディスティックな 描写と直接的なエロティシズムからだろう。
「サイコ」のシャワー室での惨殺シーンと、本作のエレベーターでの惨殺シーンが比較されることがあるが、
ヒッチコックの、刃物を振り下ろす殺人者と悲鳴をあげる被害者を細かいカット繋ぎで見せ、排水口に吸い込まれていく血と殺された女性の眼のクローズアップで惨劇を観客に伝える表現は、実に素晴らしい。
一方デ・パルマは、被害者の手や首をカミソリで切り裂き、血にまみれた女が力なく助けを求めて手を伸ばすところを真正面から捉えるなど、ストレートに残酷だ。
ヒッチコックのような上品さは、確かにない。
が、これはヒッチコックがやらないから敢えてやっているとも思える。
しかも、見せ所は惨殺の瞬間ではなく、ナンシー・アレンが血まみれのアンジー・ディキンソンを発見してからのカットだ。
アレンへのズーム、ディキンソンへのズーム、アレンの目に射すカミソリの反射光、凸面鏡に写る犯人と被害者と目撃者の位置関係、これらのカットをスローモーションで見せ、最後に犯人が落としたカミソリを閉まりかけた扉の隙間から素早く拾うところを通常スピードに戻して見せる。
この物語の最も重要で、且つディキンソンからアレンに主人公が交代することを示す瞬間の、見事な演出。
こんな撮り方をヒッチコックはしない。
女性の描き方においては、ヒッチコックとは対局にある。
ヒッチコックが撮るヒロインは、紗の向こうにあって、あくまでも美しく清楚。
逆にヒロイン以外の女性を引き立て役にしてしまう冷徹さもある。
(ヒロインにだけ紗をかけるのは、この時代あたりまえの手法ではあったが)
対するデ・パルマの女性はとことんセクシー。
本作のアンジー・ディキンソンもナンシー・アレンもそうだが、無惨に絞め殺される精神病院の看護婦まで、セクシーだ。
そのセックスアピールの描写はストレートで、奥ゆかしさはない。
ヒッチコックもデ・パルマも女性好きなことは同じだが、つまりデ・パルマは「スケベ」なのだ。
正直、ここがデ・パルマに心酔する要素のひとつだったりもする。
この映画は、デ・パルマのオリジナルストーリーの中では、最も説得力があって筋が通っている。
それまでの作品で試してきたテクニックの集大成的な位置付けにもなっていて、ひとつの到達点と言って良いと思う。
そして何より、当時の妻君であったナンシー・アレンの魅力が突出していて、次作「ミッドナイト・クロス」と本作の二本が彼女の最高作だ。