「ユダヤ人のスピルバーグが本作を撮った意味。」宇宙戦争 レプリカントさんの映画レビュー(感想・評価)
ユダヤ人のスピルバーグが本作を撮った意味。
私自身、公開当時劇場鑑賞して大満足な作品だったにもかかわらず周りの映画好きの評価が今ひとつだったのが印象的な本作。
インディペンデンスディの後に製作された本作は1953年の宇宙戦争のリメイクという点では共通するものの、スピルバーグはインディペンデンスディとは違うアプローチで臨むと言った通り、宇宙からの侵略を一般人目線で描くことにより、その侵略の様がより恐怖を伴ったスリラーとして描かれた秀逸な出来だったし、メッセージ性もかの作品とは比べようもなく強い作品に仕上がっていた。
トム・クルーズ演じる主人公はとにかく全編わたって娘の命を守るために勝ち目のない無謀な戦いを避けて逃げることに徹する。時にはティム・ロビンス演ずる男を殺してまでも。それは生き延びるためにはやむを得ない行為だった。
公開当時は世界の警察として様々な国へ派兵し軍事介入するアメリカを皮肉り、不戦の意思を監督が示したものと解釈していたが、今思えば本作で上映時間の大半を費やしてまで執拗に描かれる宇宙人の人類への残虐な虐殺行為、これはまさにナチスドイツによるユダヤ人虐殺のメタファーだったのだと今回観ていて思い知らされた。
当然、監督がそのような意図をもって製作したというコメントは見たことがない。しかし、すでにシンドラーのリストを発表したあと、ユダヤ人であるスピルバーグが古典的SFの宇宙戦争をこの内容で撮ったということ自体がその意図があったといまや思わざるを得ない。
人類を圧倒的に凌駕する宇宙人による侵略になすすべもなく虐殺されて行く人類の姿はかつてナチスによって虐殺されていったユダヤ人の姿と被る。本作のトムが演じる父親はまさにナチスを前に他人の命を犠牲にしてでも逃げざるを得なかったユダヤ人のようだ。
そう思って、あらためて本作を観ると当時単なる怪獣映画として楽しんでいた以上に深い内容だと感じさせられる作品だった。