小間使の日記のレビュー・感想・評価
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猫も杓子も~戦間期のフランス
原作は1900年に発表された小説で
ブニュエルは1930年代中頃に設定したようで
ラストのデモは〈1934年2月6日の危機〉と呼ばれているもののよう
(スタヴィスキー事件により政府不信は最高潮!)
戦間期のフランスの田舎での人間模様が
国の縮図として冷笑的に描かれている
都会の水に洗われたセレスティーヌに
男達は欲望もあらわ
勤め先のブルジョア家の精力絶倫な入婿は欲求不満の捌け口として…
その家長はブーツに並々ならぬ思いがあるらしく
変化球のようなアプローチ(足フェチ?)
使用人のジョセフは自分の〈計画〉の一部としての彼女の利用を考える
そして隣家の退役軍人もアタックしてくる
彼は入婿(ユダヤ系)と敷地境界を巡り小競り合いを繰り返す
(好戦的、植民地支配?)
宗教家は吝嗇ブルジョア妻を救えないし
赤頭巾ちゃんみたいじゃない少女は森で襲われ
憲兵は犯人を特定できない
愛国者を自認するジョセフの残虐性を疑う
セレスティーヌは工作するが失敗する
彼女は入婿の誘惑を退け
その義父は恍惚死させ
極右の使用人を追いやり
退役軍人を支配下におき
誰が〈狼〉かと考え続ける…
ジャンヌ・モローはフランスを象徴する女優なんだな、
と、しみじみ思った
この時代背景は
世界恐慌が起こると
ドイツへのアメリカからの投資が引き上げてしまい
フランスはヒットラーに賠償金を踏み倒され
高齢のドゥメール大統領はロシア移民に暗殺された
また、先の戦争利得者等は脱税を摘発される
ブーツを抱えて倒れたおじいちゃんはこれらのイメージかな?と、思った
不況なのにヒットラー政権樹立による
大量のユダヤ人中心の難民も流入し
金融/政治/メディア各分野における
ユダヤ系の浸透(影響力)も一般大衆に発見され
その驚きと疑問が右翼メディアに煽られ
反ユダヤ主義が過熱した
愛国者で極右活動家らしいジョセフも
世論誘導に加担しシェルブール(軍港都市)に
セレスティーヌに似ていない相方(男性?)と
〈計画〉通り店を開業し繁盛させた
ブニュエルの〈黄金時代〉を上映禁止にした
警察庁長官(右寄り)は国民に人気で
その解任にデモ隊は彼の名前を連呼し抗議する
原作者は世の中に悲観的だったみたいだが
ブニュエルは総てにおいて 怒り心頭か ⚡︎
家政婦は見た!
大昔に見たはずだけど、ほとんど覚えていないので、再見することに。
終始不穏な雰囲気の漂っている映画で、足フェチの大旦那や性欲の塊の旦那に神経質な奥方、険悪な関係の隣人とそろえば、早晩何か起きないはずはないと思える。主人公の小間使の行動原理も不可解で、何を考えているのかよくわからず、なおさら見ている者を不安にさせる。案の定中盤にとある惨事が起きるのだが、ただそのことで物語のトーンが大きく変転するわけでもない(のがブニュエル流か)。
ヒエラルキーの逆転というテーマは、ハロルド・ピンターの「召使」ほかいくつか例があるが、この映画の場合はもっと重層的だ。共同脚本のジャン=クロード・カリエールとはこの作品が初のタッグらしいが、後年の作と違って原作物なので、どこまで彼らの企図したものなのかは不明だ。
30代のジャンヌ・モローは最初からひと癖ありそうな顔つきなので、もっと清楚な女優の方が意外性があって良かったのでは?
登場する人物は皆、何やら「おかしい」。
シュールレアリスムを代名詞に持つ(初期作品だけか?)ブニュエル作品としては、大変解りやすい作品となっているが、本作のシニカルさはまさにブニュエル作品といえよう。モロー演じる都会から田舎の邸宅にやって来た小間使セレスティーヌの目線から、ブルジョワ階級の体たらくぶりや使用人の間にもある格差、そしてフェチシズムや世の中の理不尽さを描く。本作に登場する人物は皆、何やら「おかしい」。都会のような娯楽の無い田舎での生活は、ブルジョア階級を“変態”へ導く(笑)。女性の靴に異常な興味を持つ女主人の父。夫との性生活に耐え切れない女主人。妻が応えてくれないために、使用人に手当たりしだい手を出す女主人の夫。隣家からゴミを投げ入れるなど嫌がらせを続ける隣人等々、階級は上でも人間的には下賎なブルジョワジーたち。使用人の間で権力を握る下男のジョゼフは人種差別主義者であり幼女趣味。しかし、何といっても一番インパクトのあるのは、この中では一番“まとも”であるセレスティーヌ本人だ。彼女がこれらの登場人物を操っていくのがスゴイ。やっぱり女ってコワイ。あの手この手で誘惑を試みる主人を軽くあしらい、おじいちゃんの変態趣味には呆れながらも付き合ってあげ、女主人の嫌味は受け流す。小間使として培ってきたプロ意識(?)に軟弱なブルジョワジーがかなうはずも無い。ある日、幼女のレイプ殺人が起こり、ジョゼフを犯人と確信したセレスティーヌが彼に罠を仕掛ける。ジョゼフは逮捕され、セレスティーヌは隣人である退役軍人の妻の座にちゃっかり収まってしまう。ものすごいブラックユーモア!しかしこれで終わらせないのがブニュエル監督だ。ジョゼフは証拠不十分で釈放され、こちらもちゃっかり故郷でカフェを経営し、熱烈なナチの信奉者となっているのだ。ブルジョワジーとちがいプロレタリアートのしたたかさ!銃で撃たれる蝶や、少女の足に這い回るカタツムリなど、シュールな映像が所々にインサートされ、ブニュエル独特の映像センスが光る。
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