V フォー・ヴェンデッタ : 映画評論・批評
2006年4月18日更新
2007年4月22日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー
“9月11日を忘れるな”はいつか合言葉になるだろうか
西暦2020年頃のイギリスを舞台に、謎の仮面の男“V”が、たった1人で極端なファシズム体制の転覆を目指す……といったストーリーが展開される。原作は80年代にイギリスで発表されたコミックだが、ウォシャウスキー兄弟が翻案を担当、製作もジョエル・シルバーと「マトリックス」のクリエイターたちの総結集が話題になった。まず古風な“仮面の義賊”に僕らがリアリティを感じるかが鍵を握るが、彼が立ち向かうファシズム国家にしても明らかにナチスの模倣。劇画なのだから……と言えばそれまでだが、“これを今やっていいの?”といった疑問もないではない。
想像するに、「マトリックス」であまりに複雑な革命の(不)可能性を問い続けたウォシャウスキー兄弟が、その反作用として権力と革命勢力の単純明快な対立とそこから生じるカタルシスを描いたもの……ということだろう。とはいえ、映画のラストでロンドンに打ち上がる巨大な“花火”はそれなりに衝撃だし、さらに60年代後半のロンドンで暴れ回った“怒れる若者たち”のテーマソングであるローリング・ストーンズの「ストリート・ファイティング・メン」をエンディングに流す念の入れよう。本作で革命勢力が掲げる“11月5日を忘れるな”という呼びかけが、数十年後に“9月11日を忘れるな”を合言葉に反体制派が結集する可能性を想像させるなど、様々な意味で同時多発テロ以降の世相を誠実に反映させた映画であることは確かだ。
(北小路隆志)