「てっきりアクション映画だと思い込み…」バニラ・スカイ alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
てっきりアクション映画だと思い込み…
だいぶ前に『オープン・ユア・アイズ』に興味を持ち、そのハリウッドリメイク版『バニラ・スカイ』があることも承知していたが、どちらも観賞した人達からはやはり「元の方が雰囲気がある」との評判だったため、『オープン~』を見てからリメイクも見よう!と思っていたものの…長い間見られずにいるうち『バニラ・スカイ』のタイトルすら忘れていました。
で、今回地上波でちょろっと説明見て面白そう!と思い、『オープン~』を見ないまま、というかリメイクだということすら忘れたまま先にこちらを見てしまいました…うっかり。
大体毎月ネットで地上波放送の映画をチェックしているのですが、ネットに載ってたジャケ写(?)見て、更に「そういや『ナイト・アンド・デイ』でトム・クルーズとキャメロン・ディアスが共演してたの『バニラ・スカイ』のオマージュとか言ってたな」と中途半端なネタを思い出し、(『ナイト・アンド・デイ』がゴリゴリのアクションだったので)勝手に「じゃあトム・クルーズが何かアクションする映画だろう」と思い込んで観賞。
…映像に迫力はあるし綺麗にできているけど、いつまで経ってもトムが爆発に巻き込まれない。あ、これアクションじゃねーや、と序盤で気付きました。笑
CMの時に『オープン~』のリメイクと脇に表示され、やっちまったなーと思いました…が、そこそこ良かったと思います。
あらすじ:NY大手出版社で大成功した父親の会社を若くして引き継いだデビッドは、金持ちでハンサム、フレンドリーな性格で人気者。だが、何でも手に入ることに調子に乗ったデビッドは、親友ブライアンが連れていたソフィアという美女を気に入った途端、身体だけの関係だったジュリーを冷たくあしらう。本気でデビッドを愛していたジュリーはその仕打ちにショックを受け無理心中をはかるが、ジュリーだけが死亡。デビッドは顔面損傷、腕や足にも大怪我を負ったが生き延びる。何よりも見た目を気にしていたデビッドは、醜い自分の顔を受け入れられず自暴自棄になっていたが、ソフィアやブライアンに慰められ、支えられながら幾度もの手術に耐え、元の顔を取り戻していく。美しく優しいソフィアとの幸せな生活を送っていたある日、目を覚ますと隣には死んだはずのジュリーが。恐ろしくなり通報したデビッドだったが、何故かデビッドの方が殺人容疑で逮捕されてしまう。
ジャンルとしてはサスペンス?全ッ然アクションはなかったですw
でも、思っていた以上に「ちょっと怖い話」で良かった。元の『オープン~』はスペインの映画なんですが、確かにこれは(ハリウッドリメイクされてさえ)アメリカ映画の雰囲気じゃないかも。
リメイクにあたり舞台がニューヨークになっており、一応映像的にはアメリカ感出してるんですが、ストーリーの運びがあまりアメリカンじゃない。アメリカの「運命がなんぼのもんじゃい」精神より、ちょっとヨーロッパの運命論的というか、そんな雰囲気を残しつつ、現代らしい「運命を受け入れつつも、その中で自分の人生を切り開いていこう」という感覚。
多分ゴリゴリのアメリカ映画だったら、最後はもっとハッキリした大団円じゃないかな。もしくは、もっとこっぴどい、わかりやすいバッドエンド。
そもそも主演のトム・クルーズが大元の『オープン~』を気に入ったことでリメイクしたそうですが、トムがこの作品気に入るの、何かわかるな…トムの宗教絡みの話題を見聞きしたことのある方なら何が言いたいかわかると思いますが、ところどころ台詞がやや宗教チックというか。
もちろん言ってることは良いことだし、人生の支えにもなるでしょうが、これをトムがやっちゃうともうね…偏見のせいだけではないと思います。
でもそれを置いておいてもやはり、トムは演技力高いです。『ミッション・インポッシブル』で有名なだけあって、昨今は特に「アクションが凄い!」ばかり言われがちになってた気がしますが、アクションが誰もできないレベルのことやってて凄い!だけでなく、やはり基本の「演じる」こと自体が上手いです。当たり前ですが。意外とバットマンのジョーカー的な悪役もやれそう。
本作では主人公のデビッドが顔面損傷したために、目の動きすらほぼ見えないような顔全体をマスクで覆っているシーンが結構出てきます。が、顔を隠していても声色や仕草でデビッドの心情を緻密に表していて、流石の一言でした。
この映画を自分主演でやりたいって言い出すだけのことはあります。
また、ソフィア役のペネロペ・クルスが本作での共演をきっかけにトムと付き合い始めたと話題になったせいか、ペネロペばかりがトムと共に話題に出されがちですが(出番もペネロペの方が圧倒的に多いから当然なんですが)、ジュリー役のキャメロン・ディアスも大変良かった。
本作ではデビッドに都合良く利用され捨てられて、ショックから狂気に走る役柄なので、狂気めいた面ばかり話題にされがちですが、恋する女性の演技もお手の物。流石はラブコメの女王。
もちろん、狂気に走った後のキャメロンの演技も、なかなか不気味で良い味を出しています。元が無邪気な役柄だったので、余計に異常さを感じます。元の無邪気さありきなんでしょうね、この怖さ。
セクシーだったりヘルシーだったり様々な魅力がありますが、やはり全力で恋を楽しんでいる弾ける笑顔や、恋が破れたことを知った時の切ない顔のキャメロンにも要注目です。
アメリカでは男女とも断トツで「セクシーであること」が魅力となるそうですが、恋をしていると、どこの国でも、社会的に何が魅力的だといわれていようと、とにかく可愛くなるものなのかもしれません。恋をすると女性は綺麗になるといいますが、その「可愛さ」が周りから魅力的に見えるんでしょうね。…幸せなうちは。
ちなみにタイトルの「バニラ・スカイ」は、クロード・モネの名画から。正式名称は「アルジャントゥイユのセーヌ川」。デビッドが母の遺産として部屋に飾っていたこの絵に描かれた空がバニラ色だったことから…だそうだが、作品にそこまで関係あるかどうか?
親友ブライアンに序盤で「いつか甘酸っぱい本当の愛を知る。俺は酸っぱいのばっかだけど、酸っぱさを知ってるからより甘さがわかる」みたいなこと言われるんですが、恐らくその台詞と掛けてるのかなーと。
何より見た目に拘っていた男が顔面崩壊し、精神的にも堕落した「酸っぱい」人生があるから、今後は「甘さ」を理解できる人生になる、この「甘さ」をバニラ色の空で表してるんだと思うんですが。そこまで、タイトルにするほど重要か?という気も。
まあ、「オープン・ユア・アイズ(目を開けて)」という台詞が最も重要なのに、これは本家が使ってて使えないから…ってことなんでしょうが。
更に言うと、地上波の日本語吹き替えでずっと意味深に「起きて」「デビッド、起きて」と言ってて、「?」だったんですが、多分ここが英語では「オープン・ユア・アイズ」って言ってたんでしょうね。「起きて」ではニュアンスが伝わらない気がするんですが…
英語で「オープン・ユア・アイズ」というと「起きろ」というより「目を覚ませ」「目を開けろ」です。同じでは?と思うかもしれませんが、「オープン・ユア・アイズ」は「よく見ろよ」「現実を見ろ」みたいな意味でも使えるのです。もちろん麻薬や酒でラリってる相手に「しっかりしろ(正気に戻れ)」という意味でも使えます。が、日本語の「起きろ」ではそのニュアンスはありません。
恐らくですが、主人公が嫌なことに目をつぶり、見ないようにしていたことに対しての「オープン・ユア・アイズ(目を開けて現実をよく見ろ)」という意味合いも含めてのタイトルだったのではないかなと思うので、せめて「目を覚まして」と訳してほしかったなあと思いました。
また、顔面崩壊顔面崩壊と書いてますが、個人的に大した崩壊でもなく、もっとぐっちゃぐちゃになってるところを想像したのに意外と普通。遠目に見たら普通にトム・クルーズ。崩壊した後やっと一般人平均レベル。全世界の男が逆に嫉妬するレベル。全俺が泣いた。
ホラーばりにモンスターっぽい顔面崩壊させちゃうとギャグになっちゃうし、仕方ないのかもしれませんが、そこら辺で一般人の自分には共感しかねました。
あの程度だったら多分、周りも割とすぐ馴染むし、初対面でも忌避するほどでもない気がします。ましてや既知の仲だった人が「どうしてもその顔が恐ろしくて無理、受け付けない、さよなら…!」ってなるほどの顔ではないなと。
もちろんデビッドが一般人以上に自分の容姿に拘ってるのがわかるシーンがわざわざ差し挟まれてるので、人一倍ショックだったんだろうと想像はできるんですけど、我が事のようには考えられませんでした。まあ、共感を求める感動ものってわけじゃないし…良いのか?
2001年製作にしては映像も綺麗で、あまりチャチさは感じません。CGの多用がされてないので、逆に新鮮に感じる人もいるかも。
120分だったらしいのですが、地上波だと結構削られてた?と思うようなシーンがちらほら。やっぱこういう「何が起きたのか考える」タイプの映画はDVDレンタルで見るべきですね。地上波のカットって、カットする側がその映画をよく知らずに重要シーンカットしてることが結構あるので…(神木隆之介主演『妖怪大戦争』の地上波カットは酷かった…)
最近多いみたいですが、「ながら見」「仕事疲れの頭でぼーっと見る」感じだと、「え、何だったの?」となる恐れはあります。一応ネタバレなしで見ること推奨の、混乱系の映画なので。
全体を通して、2001年製作とは思えないくらいの綺麗な映像、豪華な俳優陣、ストーリー、どれも良かったと思います。リメイク元の『オープン・ユア・アイズ』をますます見てみたくなりました。