「ペーターゼンが描くスペクタクル映画の醍醐味」トロイ Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
ペーターゼンが描くスペクタクル映画の醍醐味
紀元前1200年のトロイ戦争を描く歴史大作。ロッサナ・ポデスタが美しい「トロイのヘレン」以来の映画化。トロイの王子パリスとスパルタの王妃ヘレンの許されぬ愛が引き起こした古代ギリシャの歴史的事件を正攻法の演出とストーリーで描いて、戦争における男と女の立場と生き方がくっきりと浮かび上がる。戦うことで男の価値を見出し名誉を得ようとすることと、その権力と力に魅せられる女の選択肢の少ない時代。主役は、ブラッド・ピット演じる英雄アキレスだけではなく、登場人物それぞれの生き方の価値観であり、数万の戦士たちの槍と剣と矢の戦がテーマであり命の映画といえる。筋肉質の肉体改造でその肉体美を見せつけるピットよりトロイの総大将ヘクトルを演じたエリック・バナが魅力的なのは、細かな描写がより多く、親子愛、夫婦愛、兄弟愛そして国の民と兵士に寄せる愛と丁寧に描かれているからだ。ラストのトロイの木馬が意外とあっさり扱われているので配役を逆にしても良かったのではないかと思える。エリック・バナの儲け役。人気スターオーランド・ブルームは戦闘能力の低い王子で、ヘレンの元夫との対決では逃げ惑う恥をさらす。アキレスを倒しても挽回できない損な役回りだ。ジュリー・クリスティがアキレスの母役で嬉しいが、登場シーンが短い。トロイの王役のピーター・オトゥールは流石に演技が深く、枯れ切った年輪の存在感が孤高の域に達している。
全体の印象は、平明な人物配置と動き。戦闘シーンのスペクタクルは素晴らしく、ペーターゼン監督の力量は、3時間に及ぶ長尺を全く飽きさせない。息子を失ったオトゥールがピットのもとへ忍び遺体の返還を要求するシークエンスがいい。横たわるバナの前で泣くピット。家族のための戦いの犠牲になるのもまた家族という無情から、人は逃れられない。