トータル・フィアーズ : 映画評論・批評
2002年8月1日更新
2002年8月10日より日比谷スカラ座1ほか全国東宝洋画系にてロードショー
最悪の危機をリアルかつスリリングに描く衝撃作
起こり得る最悪の危機=米ロ全面核戦争の到来を、説得力をもって描き切った衝撃作。
その直接の引き金となるのは米国を襲う核テロ(爆風の描写が秀逸)だが、本作の優れた点はそこに至る展開の確かさ。ロシアで不慮の事態が相次ぎ、米政府にロシアへの不信感が膨らむ。その過程がじつにリアルなのだ。
少ない情報をもとに無名の新大統領ネメロフの真意を探る米政府。軍強行派の暴走で生まれた米の誤解を解きたいが、大国の面子は維持したいネメロフ。そして、両国の緊張に乗じて核テロを画策するあるグループ。それぞれの動きをテンポよく追い、国際政治のスリリングな駆け引きと、分析を誤った際の怖さをまざまざと見せつける。ネメロフを親米と確信する若きライアンに、大統領らを納得させる術をCIA長官が手ほどきする設定も、微妙な政治の実態をわかりやすくしている。長官に扮したモーガン・フリーマンの存在感に支えられ、ベン・アフレックもいまどきの好青年ライアンを体現し、違和感はない。
そして核テロ後、米ロ首脳が自国にとっての最悪の事態を考え、ともに核攻撃に駆られていく心理も理解でき、底知れぬ恐怖に包まれる。放射能汚染の描写は甘いが、絵空事では片付けられない重厚な政治サスペンスだ。
(山口直樹)