チーム★アメリカ ワールドポリス : 特集
翻訳者に聞く、字幕翻訳の舞台裏
※前のページから続く
聞き手:編集部
――そうしたことは勇気がいりますよね。
「宣伝的には社会的なことなんて後回しでいいんですよ。ただ、思いのほか北朝鮮はこの作品の中でバカにされてないですよ。“訛り”くらいなもので。アメリカでも“訛り”をネタにするのはよくあるんですが、実は字幕では一番これが大変。吹き替えもそうですが、アメリカのスタッフに口うるさく言われますね。例えば『宇宙戦争』では、主人公の隣人は一言しかセリフを発しないブラジル系アメリカ人なんですが、日本語版の吹き替えでも、ポルトガル語が母国語で日本語を話せる人を、その一言のために呼んできました」
――それはまた凄いこだわりですね
「オリジナル版では英語でしゃべっていて、途中からポルトガル語に変わってしまうんです。なので日本語版でも、ポルトガル語訛りの日本語でしゃべっていて、途中からポルトガル語になるようにしました。大事なのはそういうディテールなんですよ。ハリウッド映画のストーリーなんて字幕なくても分かるものばかりです。昨今のアメリカ映画は、セリフを含めたディティールで映画を面白くするよう工夫を重ねています。だから、ストーリーを無視してディテールを訳さなければならない。なのに、今の字幕や吹き替えのほとんどは、ストーリーを重視するあまりディティール描写を省いてしまってるんですよ。僕はそここそをきちんと表現して観客に伝えたい。例えば前述の『宇宙戦争』ですら、ギャグ満載なんです。『チーム★アメリカ』はなおさらです。訛りでいえばキム・ジョンイルも、英語を話すと訛るというのを散々ネタにしていますしね」
――Lの発音がRになっちゃうとか?
「それもあります。韓国系の人が日本語をしゃべるとき『ざじずぜぞ』が『じゃじじゅじぇじょ』になるんですが、これは『血と骨』でも正確に再現されてました。今回の字幕では、これを取り入れています。だからバカにしたわけじゃなくて、正確に再現したまでなんです。誇張はしましたけどね(笑)」
――特に苦労したところはありましたか?
「 “訛り”と一緒で、ゲイネタも分かりづらいんですね。ミュージカルのシーンで、楽屋で話している人はどうみてもゲイなので、男だけど女言葉にしています。この映画ではジョンイルもゲイっていう設定なんですよ。アメリカでポピュラリティーのあるギャグで、日本ではないものを分からせるというのが難しい」
――今回の自分の仕事の中で、お気に入りのフレーズはありますか?
「トレイからは常々“観客を笑わすために、どんどん勝手に日本流に内容も変えて欲しい”と言われています。もっとも字幕版の場合音声が聞こえるので大幅な変更は許されません。ですが、“オリジナルをアメリカの観客がどういう思いで観るか”を忠実に再現したいと思っているので、一部意訳を加えました。主役であるゲイリーからスーザン・サランドンへの皮肉なひと言と、『パール・ハーバー』の歌の部分がそうです。この変更はトレイの許可を得ているという事で、パラマウント本社にも納得してもらいました。『パール・ハーバー』の歌について具体的には、以下の部分です。『MISS YOU』という表現は日本語にないので、音の響きを考慮して、“『パール・ハーバー』を見てしまった人に対してもゴメンナサイ”……っていう感じで字幕を変えたんです。これは試写でも笑ってもらえたみたいで良かったです」
――「チーム★アメリカ」で英語を覚える子供が増えるといいですね(笑)
「字幕じゃあんまり英語の勉強にならないですよ。よく英語の字幕を出して映画を観ると勉強になるっていいますけど、字幕を消してスペルを想像しながら辞書を引くという作業がないと覚えないんじゃないかな。まあ、『チーム★アメリカ』はそんなに難しい英語を使ってないですよ。バカですから、映画としては(笑