スパイダーマン : 特集
「アメコミ原作映画」とひとまとめに考えてしまいがちだが、実はこのジャンルの映画は原作の出版社で製作事情が変わる。アメリカの2大コミックス出版社、DCコミックとマーヴル・コミックでは映画化の際にどこが違うのか。「スパイダーマン」の映画化はなぜこんなに遅くなったのか。アメコミ事情にむちゃ詳しい堺三保氏に舞台裏を教えていただいた。
長かった映画化への道のり
「スパイダーマン」は困難を乗り越えてきた奇跡の映画だ
堺三保
やった! ついに「スパイダーマン」が映画化された! スパイダーマンといえば、バットマンやスーパーマン、X-メンと肩を並べるアメコミ界の人気ヒーロー。それがとうとう大スクリーンで活躍するときがきたんだから、アメコミファンはこぞって狂喜乱舞しているわけだ。もっとも、世間一般では何がそんなにすごいことなのか、今ひとつわかってもらえていないような気もする。
実質上、日本のTVアニメの歴史が人気マンガ「鉄腕アトム」のアニメ化から始まったのと同じように、アメコミ、すなわちアメリカン・コミックスの映像化の歴史もまた古い。41年のフライシャー兄弟によるアニメーション映画「スーパーマン」から始まって、50年代のジョージ・リーブス主演による「スーパーマン」のTVシリーズや、60年代のアダム・ウェスト主演による「バットマン」のTVシリーズなど、日本人でも40代以上の方ならよく覚えておられるものは多いはずだ。
もっとも、アニメや低予算の実写化ではなく、高度な特撮を駆使した大予算の大作映画化ということになると、「スター・ウォーズ」の大ヒットによってハリウッドで巻き起こったSF映画ブームに乗って製作されたクリストファー・リーブ主演の「スーパーマン」(78)が嚆矢となろう。この映画版「スーパーマン」は4作が作られ、さらに89年から「バットマン」も4作品が作られているのだが、「X-メン」が映画化されたのは2000年、スパイダーマンはようやく今年になってからだ。
なぜ、こんなに差がついてしまったのか。それは各作品の出版社の違いにある。スーパーマンやバットマンのコミックスを出している出版社はDCコミックス、スパイダーマンやX-メンのコミックスを出しているのはマーヴル・コミックスという。このうちDCは、タイム・ワーナーグループという巨大情報企業の傘下にある。そのため、映像化全般に関してはワーナー映画が優先的に権利を持って管理しており、映画化もワーナーを通して行われている。ところが、マーヴルの方にはそういう親会社がない。そこで作品ごとに映像化権をいろんな映画会社に売り、映画化を行おうとしている。だから、「X-メン」は20世紀フォックスの映画だけど、今度の「スパイダーマン」はソニー・ピクチャーズだったりするわけだ。ところが、こうして作品ごとに権利を切り売りするのが、これまでマーヴルはヘタだった。というより、売り先をきちんと選べなかったり、売ったあとのクオリティ・コントロールができなかったりして、なかなかDCのように大作映画を生み出すことができなかったのだ。
特にスパイダーマンは、映画化権をカロルコという会社(「ターミネーター2」なんかを製作していたところ)に売ったまではよかったが、そのカロルコが倒産したあげく、権利があちこちに転売されてしまい、ずっと権利問題が解決せずに、一時は映画化は不可能とさえ噂されていたくらいなのだ(おもしろいのは、テレビアニメ化の権利は無事だったらしく、映画化がもめ続けている間にも何回もTVアニメが作られているところ。著作権の世界は奇々怪々である)。監督も、ずっと「ターミネーター2」や「タイタニック」のジェームズ・キャメロンと言われていたのだが(実際にキャメロンが書いた脚本も存在している)、紆余曲折の末、サム・ライミに決定し、ようやく完成したと思ったら、ニューヨークのテロ事件のあおりを食って、大幅な再編集が必要となって公開が昨年冬からこの春まで延びてしまった。「スパイダーマン」は、それくらいいろんな障害を乗り越えて完成した奇跡のような映画なのだ。心して楽しんでいただきたい。
ちなみに、ライミ監督と主演の2人は続編の契約を済ましてるとか。次はもうちょっとサクっと作っちゃってください。