スキャナー・ダークリー : インタビュー
SF作家フィリップ・K・ディックの小説は何作も映画化されているが、「マイノリティ・リポート」も「ペイチェック/消された記憶」も、原作小説のアイデアの一部を使っているだけで、まったくの別世界。だが「スキャナー・ダークリー」の世界は原作通り。これが実現できたのは、監督リチャード・リンクレイターと主演のキアヌ・リーブスがどちらもディックの大ファンだったからに違いない。(聞き手:平沢薫)
キアヌ・リーブス インタビュー
「すぐにOKだと言われて、監督と2人で“ヒッヒッヒッ”と笑ったよ」
キアヌ自身もこの映画が原作通りであることを力説する。
「この映画は、テーマも、込められた感情も原作と同じだよ。僕は撮影中もずっと原作を読んでいた。ただ、言葉使いが違う。原作は70年代に書かれて当時の隠語をいっぱい使っているけど、僕らはこれを現在の物語にしたかったから、登場人物の話し方を現代的にした。撮影前に2時間のリハーサルをやったんだけど、ロバート・ダウニー・Jr.はセリフをすべて現代ならこうしゃべるというふうに変えてしゃべるんだ。それに合わせて僕らも即興でしゃべった。あのリハーサルはおもしろかったよ。でも他は原作通りだ。とくに、登場人物たちの感情は原作と変わらない」
キアヌがディック原作の映画化作に出演するのは初めてだが、「マトリックス」も「JM」も世界観はディックの小説の影響大。キアヌ自身もディックの大ファンだ。
「最初に読んだのは『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』だ。これは『ビルとテッドの大冒険』シリーズでビル役をやったアレックス・ウィンターに勧められて読んだんだけど、それ以来、大ファンになった。ディックの小説のどこが好きかというと、まず、ほとんどの小説の舞台は未来なのに、いつも現代の物語ように感じられるところ。それに彼のユーモア感覚が好きだ。自分が好きじゃない世界についてのユーモアがいい。彼の小説の登場人物は、いつも自分の周囲の事態をコントロールしようとするんだけど、ある時点で自分が制御できない状況に陥ってしまう。そして、大きな疑問を投げかけてくる。僕らは何者なのか。愛とは何か。人間の営為とは何か。登場人物がいつも“いったい何がどうなっているんだ?”っていう状況になってしまう。監視カメラが見ていて、謎のボスがいて、世界は混乱状態だ。そして、そんな状況の中で、登場人物はどうにかして生き延びようとする。そういうところが魅力的なんだ。それに彼の言葉使いも好きだよ。常に、短い簡潔な言葉を使って表現するところがね」
しかも、この原作はディックの自伝的小説。ディックがドラッグに溺れた日々の、彼と仲間たちとの生活が色濃く反映されている。
「原作がとても自伝的な物語だから、ディックの娘さん2人が脚本を読んで協力すると言ってくれたのは、監督にも僕ら俳優にも、とても心理的な支えになった。彼女たちは撮影現場にも来てくれて、僕も2、3回会ったよ」
ディックがこの原作で描いた世界は現実社会そのものだとキアヌは言う。
「監視社会で個人の人権が失われているのは、今、現実で実際に起きていることと同じだよね。政府とビジネス界が、一般大衆の利益とは関係なく癒着しているのも同じだし」
監督リチャード・リンクレイターとはディック好きという点で意気投合したそうだ。
「彼の映画は何本か見てたよ。フィリップ・K・ディックが大好きで、この原作を映画化するのに3年もかかっていると聞いて、彼に会ったんだ。ロサンゼルスで2回会って話をして、どうやって資金を手に入れようかということになって、ワーナー・インディペンデント・スタジオに“フィリップ・K・ディックのSFの映画化で僕が主演する”と話したら、すぐにOKだと言われたんだ。この返事を聞いて、監督と2人で(ビルとテッドみたいなポーズをして)“ヒッヒッヒッ”と笑ったよ。こんなユニークな映画なのに、メジャー・スタジオが製作するんだからね(笑)」
この映画にジャンル名をつけるなら?
「SF悲劇的コメディ、かな。相反する要素が詰まってて、ローシェンバーグのコラージュ・アートみたいな映画なんだ、古い絵画と現代の写真が混在しているような。それに“アニメ”とか“寓話的”という形容詞も付けられる。さらに“独創的”ってのも付けたいな」