大統領のカウントダウン : 特集
この3月から4月にかけて、2本のロシア映画が日本で公開させる。これまでのロシア映画といえば古くは「シベリア物語」や「戦争と平和」、最近では03年ベネチア映画祭グランプリを獲得した「父帰る」まで、どちらかというと民族色・文芸色が豊かだったり、芸術性が高いという印象が強かった。だが、これから公開されるものは従来のイメージとは正反対の、娯楽性を追求した作品なのである。(文・構成:編集部)
日本に来るのか、露流ブーム?
まず、1本目は「大統領のカウントダウン」。04年12月に公開され、翌年1月までの興行成績で首位を獲得した戦争アクション。05年の国産映画ランキングで6位、歴代でも累計興収460万ドルで11位につけるスマッシュ・ヒットを記録、エンターテインメント路線の先駆けとなった。舞台は現在のロシア。アラブのテロ集団と手を組んだチェチェン・ゲリラに、単身で戦いを挑むFSB(旧KGB)エージェント、スモーリン小佐の活躍を描いている。
02年に起きたモスクワ劇場占拠事件を明らかにモデルにしたシーンや、91年の軍事クーデタを想起させるような、装甲車がモスクワ市内を疾走・爆発するシーンがあるうえ、ロシア軍のバックアップによる戦闘機のドッグ・ファイトなど派手なシーンも多く、マスコミからは「ロシア版007」とか「モスクワのダイ・ハード」と評価された。ただ、チェチェン人を叩く一方的なスタンスは、現代のプロパガンダ映画であることには違いない。
自国作品が興行記録を次々と塗り替えていく状況は、「ブラザーフッド」と「シルミド」が競合したときの韓国のようだ。だが、大作ばかりでなく、今後もゴーリキー原作のカルト・ホラー「妖婆死棺の呪い」のリメイクがロシアで公開待機中だったり、昭和天皇を描き一部で熱狂的な話題を集めるソクーロフの新作「The Sun」が、今年ついに日本で公開されるのでは、というウワサもあり、ロシア映画の動向は今後も注意しておきたいジャンルといえよう。
これらのヒットの原因になったのが、BRICs経済と言われる好景気。「BRICs」とは資源が豊富で消費能力が高いブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字で、それらが今後の世界経済をリードするという考え方。事実ロシアはプーチン政権の安定によって、オイル・マネーによる未曾有のバブル景気に見舞われ、それが国内映画産業の活性化や、モスクワなど都市部のシネコン建設ラッシュにつながっている。
そしてもうひとつはTV局の存在。そもそも国内映画人気の火付け役になったのは、90年代はじめに起こったTVシリーズ・ブームだったと「カウントダウン」のラブレンチェフ監督が語るように、アメリカを真似てのアクションあり恋愛ありのTVシリーズが若者を中心に支持を集め、自国の映像作品を受け入れる土壌が出来ていた。そこに、好景気による莫大なCM収入を背景に、テレビ局が次々と国内映画の出資や製作に参入、自局を使った大々的な宣伝プロモーションの展開によって、熱狂的な映画ファンによるマーケットを生み出したのだ。そして、その第一人者はプーチン政権に一番近いとされる準国営局「チャンネル・ワン」の重役にして、「ナイト・ウォッチ」のプロデューサーであるコンスタンチン・エルンスト。これまでにも原潜沈没事件などを題材に、何でもアリのきわどい作品をプロデュースしており、プーチンとも親しい彼こそが、今後のロシア映画界を引っ張っていくと言われている。
自国作品が興行記録を次々と塗り替えていく状況は、「ブラザーフッド」と「シルミド」が競合したときの韓国のようだ。だが、大作ばかりでなく、今後もゴーリキー原作のカルト・ホラー「妖婆死棺の呪い」のリメイクがロシアで公開待機中だったり、昭和天皇を描き一部で熱狂的な話題を集めるソクーロフの新作「The Sun」が、今年ついに日本で公開されるのでは、というウワサもあり、ロシア映画の動向は今後も注意しておきたいジャンルといえよう。