「ピンポン玉のように高く飛ぶ。」ピンポン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
ピンポン玉のように高く飛ぶ。
○作品全体
ピンポンという作品はペコとスマイル、その二人が主人公だとは思うけれど、個人的にはペコの物語として見てしまう。
ペコが自らのおとぎ話のようなヒーロー像から脱却し、血の通ったヒーローへと飛躍する物語…そんなふうに感じる。
冒頭の「アイキャンフライ」のシーンではペコを水底へ「落とさない」のが面白い。ここではまだペコが落ちてしまうような「凡人」なのか、卓越した能力を持つ「ヒーロー」なのかは不明確だからだ。
水底へ落ちていくのは物語中盤、アクマに破れ、自暴自棄になったペコが復活を見せようとするところ。これから再起を図って跳ね返ろうとするペコを一度、努力を重ねなければならない「凡人」へ「落とす」。そして再びスマイルの前に「ヒーロー」として現れるわけだが、そこにいるのは自身の実力を認めた、見栄という仮面を外した星野裕という「ヒーロー」だ。
一度は水底へ沈んだペコが、努力をして跳ね上がってくる。特訓方法もプレイスタイルも、高く上へと向かおうとするのが面白い。
ピンポン玉のように落ちるエネルギーの分だけ高く跳ね上がる。それがペコというキャラクターであり、本作の一番魅力的な部分だ。
○カメラワークとか
・文字演出。コメディ寄りの日常シーンでは海の堤防を歩く2人の足元に「堤防を歩くのは危険です」の掲示物。シリアスなシーンで言えば、スマイルに敗れたアクマが卓球場「タムラ」でペコへ話しかけるところで「希望を高くもて!」の張り紙が後ろに映る。自己流でカットを習得しようとするアクマの背中を押すような、作品からの空気感。そして作中最初の大会で負けたあとの「俺の血は鉄の味がする」。「ヒーローぶった」ペコに対してヒーローではあり得ない敗戦と、その痛みを簡潔に突きつけられているような言葉だ。
・ベストカットはペコ対ドラゴン戦で、ペコ…いや、星野裕がヒーローに舞い戻った時のスマイルのカット。スマイルの笑みを目元のアップショットで映す。顔全体は見せず、ゆっくりと、少しだけ下がった目尻で笑みを表現する。第三者的なカメラ位置で撮ったならば取りこぼしてしまうような表情の変化。アップショットによってスマイルの心情にググッと接近する感じもすごく良い。