パンチドランク・ラブ : 映画評論・批評
2003年7月15日更新
2003年7月26日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
映像はもちろんサウンドまで一人称なのだ
今年は実験的な手法を堂々と展開した作品にかなり秀作が目立つ。でも本作は真に新しい映像空間を開拓したという意味で、一頭地を抜いているといえるんじゃないか?
なにしろこれは実質的に一人称映画。すべての物事が、主人公アダム・サンドラーの混乱した心象と同化すべく描かれているのだ。スタイルを自在に切り替え、増幅された知覚刺激とシンクロしていくドライブ感あるキャメラ。これにプリズムで拡散されたような画面を横切る光線と、ジェレミー・ブレイクの抽象的なアートワークが夢幻的な効果を加えてみせる。そして特筆すべきはPTA組常連ジョン・ブライオンのサウンド・デザイン。「そのシーンで聞こえる音」よりむしろ「主人公が連想する音」を中心にサンプリングされためくるめく音のコラージュは、映画史上未曾有に精緻なものといっていい。
しかし、である。大好きなサンドラーのためにPTAが“当て書き”したというだけあり、いままで数々のコメディ映画で彼が繰り返してきたキャラクター(マザコン、やや自閉的、キレると大破壊、スケベだが女性が苦手etc.)をきちんと踏襲してるのが嬉しいじゃないか! しかも彼の最大の魅力である、柔らかで甘い雰囲気にも満ちている。「ウェディング・シンガー」のファンもこれならOKかもね。
(ミルクマン斉藤)