劇場公開日 2002年5月18日

パニック・ルーム : 特集

2002年4月17日更新

フィンチャーかく戦えり~スタジオとの5番勝負

編集部

まだ、ハリウッド長編は5本しかないのに、すでに有名監督のデビッド・フィンチャー。でも「セブン」からの監督だと思ったら大間違い。今日のフィンチャーは「エイリアン3」があってこそ。この作品でスタジオとの戦いに惨敗したからこそ、その後、自分の思い通りの作品を作るため、戦い続けてきたヤツなのだ。だから、作品数は少ないのに、作風が明確。もうすぐ公開の新作「パニック・ルーム」の予習に、これまでの彼のスタジオとの戦いを、作品ごとに振り返ってみよう。

■予選:ハリウッド以前

対戦相手:ILM

結果:フィンチャー不戦

「8歳のときから監督になりたかった」と語る彼は、高校卒業後すぐ18歳でコーティ・フィルムに参加、81年にILMに入社、「スター・ウォーズ/ジェダイの復讐」「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」に参加する。が、彼によれば「ああいう大きな企画に参加するのは、カメラを積んだり床を掃いたりできるなら簡単なんだよ。セカンド・アシスタントなんてなんの責任もない仕事なんだ」とのことで、自分でCMを監督するため退社して、86年プロパガンダ・フィルムズを共同設立。CMやクリップで活躍しつつ、映画監督の機会を待つ。

■デビュー戦:1992年「エイリアン3」

対戦相手:20世紀フォックス

結果:フィンチャー惨敗

FOX/2500円(税別)
FOX/2500円(税別)

フィンチャーのハリウッド・デビュー作。リドリー・スコットの第1作、ジェイムズ・キャメロンの第2作がともに大ヒットしたシリーズの第3作とあって、製作は難航を極め、脚本だけでも、ウィリアム・ギブソン版、ビンセント・ウォード版、ジョン・ファサーノ版がボツり、結果、このシリーズの映画化権を持つ製作者コンビ、デビッド・ガイラーとウォルター・ヒルが脚本も担当するという惨状(ヒルは脚本家ではあるが)。何人もの監督が逃げ出した末、監督を引き受けたのが当時、若干29歳、しかも長編映画は未経験のフィンチャー。老舗20世紀フォックスのガイラー&ヒルのハリウッド古参コンビが彼を起用した際の思惑は、新人なら扱いが簡単だというものだったのではないかと思われる。が、その思惑は大ハズレ。フィンチャーは、彼らから自分の作品を守るため、英国での撮影を主張、彼らがクリスマス休暇をとっている隙に撮影を進めるなど、さまざまな手段で戦う。しかし、最終編集権は彼らにあり、フィンチャーの意図通りの作品にならなかったのは有名な話。はっきり言って、フィンチャー惨敗。

しかも、場外乱闘でも惨敗している。フィンチャーは、それでもカットされた場面をレーザーディスクに収録できないかとスタジオに打診したが「その予定はない」と拒否されたのだ。

しかし転んでもただでは起きないのがフィンチャー。ごく最近のインタビューでも、本作についてはこんな発言をしている。「あの体験には大火傷したよ。外部から入ったから、この業界の政治学と仕組みを理解するのに時間がかかったんだ。あれで学んだよ、映画を救うには、最大の出資者が信頼できるヤツでなきゃだめだ」

とはいえ、本作の映像の色彩設計と質感はフィンチャーならでは。「エイリアン2」的なアクション映画を期待したファンには不評だが、独自の映像美に貫かれた異世界の創造という点では、第1作「エイリアン」の血を受け継ぐ続編といえる。

FOX/2500円(税別)
FOX/2500円(税別)

■第2試合:1995年「セブン」

対ニューライン・シネマ

結果:引き分け

前作での苦い経験から、オリジナル脚本を探していたフィンチャーが出会ったのが、最新作「パニック・ルーム」にもカメオ出演している後の盟友、アンドリュー・ケビン・ウォーカーの脚本。前作での苦い経験を活かして、今回は新興ニューラインシネマに企画を持ち込む。だが、ここでもフィンチャーの100パーセントの満足は得られなかった。「取り直しのためにあと18日必要だと言ったら、プロデューサーが言った“そいつをクビにしろ。そいつはミュージック・ビデオ屋で自分が何をしているか分からないんだ”ってね」

フィンチャーの不満はあったものの、猟奇殺人事件を暗い映像美で描いた本作は大ヒット、批評家にも好評で、フィンチャーは一躍ハリウッドの人気監督になる。この戦いは結果、引き分けか。

東宝/6000円(税別)
東宝/6000円(税別)

■第3試合:1997年「ゲーム」

対ポリグラム他

結果:フィンチャー作戦勝ち

「セブン」の映像が絶賛されたフィンチャーの興味は、ストーリーに向かう。オチのあるストーリー展開は、今や食傷気味だが、「ユージュアル・サスペクツ」が95年、その時点ですでにこの企画は動いていたのではないか。ブームを生んだ「シックス・センス」は99年。本作はその2年前の作品だ。

「この脚本でいちばん興味を惹かれたのは、巧妙なストーリーだ。この物語にはちょっと『トワイライト・ゾーン』みたいな雰囲気があって、そこが好きなんだ」

スタジオとの戦いを避けるためか、本作はポリグラム、A&Bプロダクション、自社プロパガンダなどの共同製作。そのおかげかとくに戦いはなかったようだ。しかし場外ではちょっとした戦いが。監督が大ファンだというジョディ・フォスターが出演依頼を断ったのだ。この戦いの雪辱戦が新作「パニック・ルーム」。この作品でフォスターの出演を実現、フィンチャーの逆転勝ちに。

■第4試合:1999年「ファイト・クラブ」

対20世紀フォックス

結果:フィンチャー圧勝

画像4

フィンチャーが初の圧勝を体験したのが、この作品。これまで、オリジナル脚本にこだわっていたフィンチャーが、この小説の映画化を決意したのには経緯がある。エージェントのジョシュ・ドーネンが強く映画化を勧め、フィンチャーが原作を読むのを拒否すると、その第20章、タイラーがハッセルの頭に拳銃を突きつけて語る場面を電話で読んで聞かせ、フィンチャーは小説を読む気になる。そして、読み終わったフィンチャーは爆笑しながら思うのだ。「参った、これはやらないわけにはいかない。これを誰かが映画化しなくちゃならないんなら、僕なら少なくとも自分のベスト・ショットをこの作品に与えることが出来る」

その後で、この映画化権をかつて「エイリアン3」で苦い経験をさせられた20世紀フォックスが持っていることを知る。そこでフィンチャーは、まず製作者と会って宣言する。「この映画を撮りたいが、ほかのばかばかしいことには関わりたくない。これはあなたが誇りに思う作品になる。でも、市場テストは出来ない。僕が合意できる脚本家を連れてきて、あとは放っておいてくれ。僕が持ってきた脚本が、僕が撮りたい脚本だ。製作予算もスケジュールもキャストも僕が決める」

そして、この要求を通してしまうのだ。その後、5000万ドルの予算を超過して、製作費増とファイナル・カット権の二者択一の際、ファイナル・カット権を手放すが、これは製作者を信頼していたから。製作費は6200万ドルになり、結果、彼の

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