劇場公開日 2002年5月18日

パニック・ルーム : インタビュー

2002年4月17日更新

「パニック・ルーム」の裏側をデビッド・フィンチャー監督に町山智浩氏が直撃取材! フィンチャーはどうしてこの作品を撮ったのか、主役の交代、カメラマンの降板などアクシデントの実態はどうだったのか、フィンチャーが本音をストレートに語ってくれた。

デビッド・フィンチャー監督インタビュー

「オレはシーンの本質を最もシンプルに実現した撮り方を求めてるだけだ」

町山智浩

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デビッド・フィンチャーは、坊主頭にヒゲ、それにトレードマークのベースボール・キャップで現われ、イスに座るや、足を机の上にドカっと放り出した。噂通りのバッドボーイ。

「『パニック・ルーム』どうだった? 充分恐かった? 充分バイオレントだった?」

――バイオレンスは「ファイト・クラブ」ほどじゃないですけどね。そういえば国際貿易センタービル崩壊を見て「ファイト・クラブ」のラストを思い出しましたよ。

「(笑)そうかもね」

――資本主義の象徴としての高層ビルを破壊するわけでしょ。

「でも、『ファイト・クラブ』の思想は原作者のパラニュークの思想であって、オレのじゃないよ」

――本当に? でも、ラストでテロを成功させたのはあなたのアイデアじゃないですか。原作より過激ですよ。

「(笑)ぶち壊したかったんだよ。クレジット・カード会社とか(笑)。でも、テロを煽動したわけじゃないぜ。オレがやりたいのは政治的な資本主義批判じゃなくて、もっと個人的でメンタルな……」

――実存主義?

「うん。まさにそれだ! オレが魅了されるのは『なぜ我々はここにいるのか』『何のために我々は生きるのか』と問いかけるドラマなんだよ」

――でも、今回の「パニック・ルーム」には強いテーマ性はないですね。

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「うん。『パニック・ルーム』を選んだのは純粋に映像的な動機。デビッド・コープの脚本を渡されたときは『君の好きなタイプのシナリオじゃないよ。1つの部屋で一晩に起こる話で、登場人物はたった6人だから』と言われたけど、そのシンプルさが気に入った。なにしろ『ファイト・クラブ』は350シーンもあって、ちょっと撮影すると荷造りして移動、また違う場所で撮影して移動の繰り返しで死ぬほどキツかったから」

――今度は楽しようと思って?

「そうじゃない(笑)。部屋の中だけで観客を飽きさせない映像にするのは大変だよ。シナリオを読んでる間、撮影のアイデアが次々浮かんできて撮りたくなったのさ」

――前半の映像は凄まじかった。特にフォレスト・ウィテカーたち強盗3人組が部屋に入ってくる場面の2分以上のワンショット。カメラが鍵穴に入ったり、ポットのハンドルの中をくぐり抜けたり(笑)。

「あれは実際はワンショットじゃなくてCGでつないでるけどね。面倒だったのは、パニック・ルームにある防犯モニターの映像だ。防犯カメラは超広角レンズなので部屋の隅々まで写ってしまう。だから、いったん普通のカメラで強盗たちの演技を撮影した後、カメラや照明を全部片付けて、もう1回防犯カメラの前で同じシーンを通しで演じなきゃならない。何倍も手間と時間がかかったよ。それは最初から予定していたことだからいいけど……主役の交代には参ったね」

――ヒロインは当初、ニコール・キッドマンでしたよね。

「撮影も始めてたけど、『ムーラン・ルージュ』で痛めた膝をまた痛めて中断。しばらく治るのを待ったけど、無理だとわかった。でも、すでにセットは組んでるし、何百万ドルも突っ込んでるから中止できない。あわてて代役を探したら、ジョディ・フォスターがOKしてくれた。で、スタッフとキャストをもういちど集めて撮影を始めたら……」

――今度はジョディが妊娠してることが判明した(笑)。

「たった数時間の出来事なのに、ジョディのお腹はどんどん大きくなるんだぜ(笑)」

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――「パニック・ルーム」のジョディってオッパイがすごく大きくない?

「(笑)妊娠してた証拠だよ。だから急いで撮影したよ。あのままデカくなったらパメラ・アンダーソンみたいになっちゃうもんな(笑)」

――急いで撮影したといっても、フィンチャー監督は大量のテイクを撮るという悪評がありますよね。今回、いちばん沢山撮り直したのはどの場面ですか?

「ジョディが走ってきて、強盗に捕まって床に叩きつけられるショットかな。夜10時に撮影を始めて、OK出したのは朝の2時過ぎだったかな? 107回撮り直したよ」

――妊婦を107回も床に叩き付けた? あんた鬼?

「ジョディじゃないよ!(笑) 彼女のスタント・ダブルさ。でもジョディ自身でも40や50テイク出したシーンもあったな(笑)」

――さすが「完全主義者」。

「オレのこと完全主義者という奴らはよっぽど凡庸か怠け者だ。いいかい。映画ってのは物凄く複雑なんだ。オレは必要もないのに何度も撮り直したり、自己満足で凝りすぎたりしてるわけじゃない。それぞれのシーンの本質を最もシンプルに実現した撮り方を求めてるだけなんだ。オレの中にあるビジョンを実現しようとしてるわけじゃない。だから、スタッフからあんたのアイデアはよくないと批判されたら、オレは素直に考え直すよ」

――カメラマンのダリウス・コンジーを撮影途中で降ろしたのは?

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「コンジーこそ完璧主義者だ。妥協せずに凝りまくるんで時間がものすごくかかった。普通ならいいけど、今回はトラブルの連続で押しまくられていたからねえ。それに、これは芸術的なFilmじゃない。商業的なMovieなんだ。まず予算内で完成させなくちゃならない。で、彼のパートナーだったコナード・W・ホールに交代してもらったんだ」

――ソニー・ピクチャーズはエンディングの撮り直しを要求したがフィンチャーに拒否された、と言われていますが。

「いや、オレは拒否してないよ。ソニーはフォレスト・ウィテカーをハッピーエンドにしてやって欲しいと言って来た。彼は悪い人間じゃないからって。オレが『別にいいけど、今から撮り直すとまた100万ドル以上かかるよ』と言ったら、『だったらいいや』って諦めた(笑)」

――なんでもハッピーエンドにしたがるのはハリウッドの悪い癖ですね。

「善人だって幸福になれるとは限らない。それが現実さ」

――エンディングといえば、「パニック・ルーム」のラストでジョディ・フォスターと前の夫は最後に寄りを戻すんですか?

「それはわからない。ただ、この映画にテーマがあるとすれば『離婚』だと思う。離婚はどういう結果に終わろうと勝者はいない。離婚した時点で夫婦は両方とも敗者だということさ」

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