「生者と死者の家」アザーズ sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
生者と死者の家
舞台は第二次世界大戦の末期、イギリスのある島の立派な屋敷。
戦地に赴いた夫を待ち続けるグレースは、娘アンと息子ニコラスと三人で暮らしていた。
ある日、突然いなくなってしまった使用人の代わりにミセス・ミルズ、リディア、ミスター・タトルの三人がグレースの前に現れる。
グレースは彼らを雇うことに決め、屋敷の細かいルールを伝える。
部屋に入った後は必ず鍵を閉めること、そしてアンとニコラスは光アレルギーのため日中でも決してカーテンを開けないこと。
アンとニコラスは第一印象はとても純朴だが、アンの方が特に心の中に鬱屈したものを抱えていることが分かる。
二人はグレース以上に父親の帰りを待ちわびているようだ。
グレースは屋敷にビクターという少年とその家族の存在があるといってニコラスを脅かす。
そして実際にグレースもアンとニコラス以外の者のすすり泣きを聞いたり、人の気配を感じたりするようになる。
前半から違和感ばかりの展開が続くが、一番不気味だったのが屋敷に保管されている死体の写真を集めたアルバムをグレースが発見する場面だ。
写真の中の死者たちは、まるで眠っているみたいだ。目覚めるきっかけを待っているかのように。
やがて屋敷内で起こる不審な出来事にヒステリーを起こしたグレースは、お清めを頼むために神父を呼びに外へ飛び出す。
そして彼女はばったり戦地から帰って来た夫チャールズと出くわす。
ますます不信感を抱かせるような展開だ。
使用人たちも何かを企んでいるようで、屋敷の庭にある墓石を隠そうとする。
戦地から帰って来たチャールズはまるで魂が抜けたようだ。
そして彼はグレースが子供たちに何かをしたことを匂わせる言葉を口にして、再び屋敷を去っていく。
アンとニコラスが目覚めると家中のカーテンがすべて取り払われていた。
激怒したグレースは使用人たちを追い出す。
そしてカーテンを探している最中に彼女は、三人の使用人の死体の写真を見つけてしまう。
はじめは彼らが屋敷を乗っ取ろうとしているのかと思ったが、どうやら彼らはグレースに警告をしていたようだ。
やがてパズルのピースがひとつずつ合わさっていくと、思いもよらない真実が明らかになる。
正直、ビクターが現実に存在する少年であり、グレースとアンとニコラスが死者であったという結末は予想外だった。
ミルズはずっと侵入者の存在を口にしていたが、この映画はすべて死者の視点で語られていたのだ。
そして彼らはこれからも屋敷を離れることが出来ない。
気になっていたのが、冒頭でグレースが子供たちに創世記の内容を語っていたように、この一家がとても敬虔なクリスチャンであることだ。
彼女は善い行いをすれば死んだ後に天国へ行けると二人に教えるが、アンが何度もリンボのことを尋ねるのが気になっていた。
リンボとは洗礼を受けずに亡くなった子供たちの霊魂が行き着くところ。
はじめから彼らが死者であるという伏線が張られていたわけだ。
グレースは自殺をしたのだから天国へは行けないだろうが、子供たちの魂も現世に留められてしまっているのは可哀想だ。
あるいはアンとニコラスは信心深いクリスチャンではなかったのかもしれない。
そう思わせるようなやり取りが確かにあった。
これはとてもキリスト教的な世界観を色濃く持ったホラー映画なのだと感じた。
一瞬だけでも一家のもとに戻り、また去っていったチャールズの存在の意味を色々と考えさせられた。