ナイロビの蜂 : インタビュー
ブラジル貧民街に住む少年たちの現実を描き、アカデミー賞監督賞にノミネートされて一躍世界に知れ渡ったフェルナンド・メイレレス監督が、イギリスの著名作家ジョン・ル・カレの原作を映画化した長編第2作「ナイロビの蜂」について語った。また、主演のレイフ・ファインズ、レイチェル・ワイズのインタビューもあわせてお届けする。(聞き手:若林ゆり)
フェルナンド・メイレレス監督 インタビュー
「この映画は僕にとって、個人的な報復なんだ(笑)」
ブラジルの貧民街に住む少年たちの“仁義なき戦い”を熱のこもったエンターテインメントに仕上げ、世界から絶賛を浴びたメイレレス監督。その彼が、英国ミステリー界の重鎮、ジョン・ル・カレの原作を手がけるというのは、意外な選択に思えるかもしれない。しかし、ここには監督の意欲をそそる要素がたっぷりあったのだ。
「僕は、本来ならスリラーやスパイ映画はやろうと思わない。なぜやる気になったかと言えば、これが製薬会社の悪徳をめぐるストーリーだったからさ。これは僕の祖国、ブラジルでも大問題なんだ。ブラジルではエイズなどのジェネリック医薬品を生産しているんだが、保健相が国民のために安く医薬品を生産しようとしているのに、アメリカはそれを阻止しようと圧力をかけている。貿易に関しても言えることだが、世界の規律は第一世界が自分の利益を守るために作られていて、第三世界には不利であり、犠牲を強いるものなんだよ。第一世界が第三世界を食い物にしている状況は、ひどいものだ。だからこの映画は僕にとって、製薬会社を困らせてやるいいチャンス。個人的な報復だよ(笑)。もちろん、これは美しいラブストーリーでスリラーでもあるから、その点でも挑戦だ」
映画はアカデミー賞脚色賞にもノミネートされている。しかしその実、フラッシュバックを多用し、原作を見事に再構築したのは監督の編集力にほかならない。イギリスの階級社会より、アフリカの生命力が鮮明に描かれているのも、メイレレスならでは。
「僕は編集段階で映画を作っていく。これは僕のやり方なんだ。編集するのがいちばん好きだね。脚本があっても撮影段階で自由にいろいろなチャレンジをして、編集しながらいちばん適切な語り方を探っていく。つなぎのシーンが必要だと思ったら、即興的に加えたりもする。脚本家やプロデューサーには内緒だけどね(笑)。役者には設定を与えて自由に動き、しゃべってもらい、それをカメラで追い続ける。セリフの声がかぶっても構わないよ。あとでカットしづらくなるけど、それが自然なんだから。それから、僕は洗練されたイギリス人社会よりアフリカに共鳴している。だからどうしても、ケニアやナイロビの描写を増やしたかったんだ」
「シティ・オブ・ゴッド」では素人俳優を訓練した上で自由な演技を引き出した監督だが、今回は「プロの俳優と仕事する醍醐味」を大いに味わったとか。
「レイフ・ファインズとレイチェル・ワイズの演技は並外れた素晴らしさで、非常に満足しているよ。2人はとても相性がいい。2人ともアドリブをやりたがるタイプでね。たとえばベッドでの会話を急遽加えたんだが、どのテイクにも新しいセリフが入っていて、どれも違う。相手が予期しないことを言うと、それに対応しなければならないよね? それがシーンを生き生きとさせるんだ。こうしたやり方ができるのも、15年間も一緒に働いてくれている撮影監督、セザール・シャローンのおかげだよ」