蟲師 : インタビュー
緻密な画面描写とその世界観で漫画界に衝撃を与え、さらに自身のコミックを監督・脚本したアニメーション映画「AKIRA」で、ジャパニーズ・アニメーションを世界に知らしめた先駆者・大友克洋。漫画界、アニメーション界に多大なインパクトを与えてきた漫画家・アニメーション作家の大友が、16年ぶりに本格的実写映画に挑んだ「蟲師」。監督自身に、製作の舞台裏や思いのほどを語ってもらった。(聞き手:編集部)
大友克洋監督インタビュー
「いろいろな人の感覚や才能と一緒に仕事をするのが楽しいんですよ」
――「蟲師」の前に別の企画があったそうですが、そういった中で「蟲師」の製作を始めたのは?
「前の企画というのが非常に大きな話で……今もなくなってはいないと思うんですが、香港のプロデューサーと『HERO』みたいな感じの、日本を舞台にしたスペクタクルなものをやろうという話があったんですよ。それで話は作ったんです。侍が虎を捕まえにいく……みたいな。でも、撮影をどうすればいいのか、自分の中ではよくわからなかった。当時のアジアの街並みを再現しなくてはいけなかったり、船も必要だったり。単に予算があれば作れるというものでもなかった。ただ、その後に『パイレーツ・オブ・カリビアン』を観たら、『できてるじゃん』って思いましたけどね(笑)。ただ、あれの技術はさすがに日本にはまだないし、予算も途方もなくかかってる。それで、まだ現実味がないよねという話になり、もっと最後まできちんと想像がつく範囲でやるべきだと思ったんですよ。そこで自分としては『蟲師』をやってみたいと言い、とりあえずシナリオを書かせてもらいました。その頃、徐々に原作が売れ始めて、そうした要因がなければ、プロデューサーも映画として企画していいかどうか判断できなかったと思いますけどね」
――他の作家が描いたものを映画化したいと思ったのは初めてですか?
「そんなことはないんですけどね。この作品が面白いと思ったのは、自分では発想しない感じがあったからです。全部自分のばかりやっていると、だんだんみんな似通ってきてしまうので。いろいろな人の感覚や才能と一緒に仕事をするのは楽しいんですよ。実写映画でというのも、そういうことですね。人が作ったものが嫌いだと、自分ひとりで漫画を描いてるだけになってしまうので(笑)。いろいろな人たちと一緒に仕事をすることによって、今まで自分が発想しなかったものが出てきたり、自分がどんどん広がっていくような気がするんですよ。別に自分を教育するためにやってるわけじゃないですけど(笑)、まあ、そういう感覚でやっています」
――アニメーションというのは背景のひとつひとつから創作していかなくてはならいんですが、実写だとすでに自然があって、役者がいて、特に自然なんてものはコントロールできないものですよね。そうした中で、思いがけずいいシーンが撮れたというようなことは?
「実写というのは、全部“思いがけず”なんですよね。自分でこうでなければいけないと考えてはいないんですよ。自分の想像で全部決めてしまうと、現場にいって全然違うということが多いものですから。自分で想像したものを具現化するだけだったら、漫画を描いているほうがいい。アニメーションにしても、全ての工程に人が入ってくる限り、完全に自分のものにはならない。そういう人によって変わっていくところ、自分にはない発想というのを面白いと思わないと、こういうことはしないんですよね。場合によっては『自分で絵が描けるのに、なんで他の人と仕事しなくちゃいけないの?』って思われるかもしれませんが、自分のものがそれほどいいとも思っていないんですよ。思ってたらこんなことしないですね(笑)。もう若くもないんですけど、いろいろなことやってみたいんですよ」
――原作は基本的に1話完結の物語ですが、そこからサブキャラクターとして虹郎や淡幽が登場するエピソードを選んだのは?
「他の話も好きなんですが、あまり劇的ではないというか、当時の人間の感じが出ている話を選んでいるのかもしれないですね。淡幽は足に蟲がついて歩けず、ずっと同じ場所にいる。一方のギンコは蟲をひきつける体質だから1カ所に留まれない。その対比ができていいと思いました。虹郎に関しては、3枚目っぽい話もあったんですが、自分としてはそんなに落すつもりはなくて、大森くんとオダギリくんで『明日に向かって撃て!』のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードみたいにできないかと思っていれました。ロードムービーっぽくしたいというのがありましたので」
――今後も実写をやっていかれるのですか?
「そうですね。この前のアニメーション(『スチームボーイ』)が予想外に長かったので、実写も何本かやってみたいというのがありまして。アニメーションも含め、実写もいくつか企画はあります。どちらが先になるかはわかりませんが、がんばりたいと思います」