劇場公開日 2006年2月4日

「復讐の連鎖の虚しさを強く感じる重々しさはあるけど、作品としては重厚で格調高い超一級の仕上りで素晴らしいです」ミュンヘン Jettさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0復讐の連鎖の虚しさを強く感じる重々しさはあるけど、作品としては重厚で格調高い超一級の仕上りで素晴らしいです

2025年2月24日
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鑑賞方法:DVD/BD

『セプテンバー5』を観た流れでストーリーとしてはその続きが描かれる本作を初公開時以来久しぶりに観ました

1972年ドイツのミュンヘン・オリンピックでイスラエル選手団が惨殺されたテロ事件の指導者達を暗殺するため、イスラエル諜報機関がヨーロッパ内に工作員を送り込むという一見ヒロイックなアクション巨編と思いきや予想に反して全く異なる人間ドラマです

本作の一番のポイントはこれがスティーヴン・スピルバーグ監督作品ということ
映画史を塗り替えるエンタメ作品群のクリエイターが作ったとは思えないほどの重厚な作りに度肝を抜かれ、それ以上に制作姿勢に感銘を受けました
監督はユダヤ系アメリカ人なのに本作ではイスラエルの黒歴史を真っ向から描き出し、しかも工作員達を英雄として描かず むしろその逆を描き、人間の尊厳というところをえぐるテーマに挑むことで世界中の同じユダヤ系の人々からバッシングを受けました
どんなに非難されようとそれ以上に監督は世界平和を祈るために本作を作り上げなければならず、心骨を注ぎ やり遂げた事が本当に素晴らしい事だと思います

そんなスピルバーグ監督渾身の本作は1970年代を完璧に再現した重厚で美しいレトロな映像、終始 緊張感たっぷりに描かれるスリリングで秀逸な脚本、主人公の工作員リーダーを演じるエリック・バナさんの哀愁たっぷりで苦悩する迫真の演技や『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)公開直前のダニエル・クレイグさんの若々しく荒々しくもある確固とした演技が楽しめる見応えたっぷりのドラマに時間を忘れグイグイ引き込まれました

シリアスな中にも食事のシーンが多いのが印象的、マーティン・スコセッシ監督の実録マフィア作品みたいで興味深かった

全編に渡って出てくる人が殺される描写がとても残酷で苦手な人も多いかも、特に女殺し屋の殺されるくだりがとても印象的、さらに主人公達の殺しが毎回スムーズにいかないのもリアルで緊張感たっぷり

と、どの要素を切り取ってもゴージャスで超一級の気品あふれる傑作だと思います

Jett