ミュンヘン : インタビュー
72年のミュンヘン・オリンピック開催中に、パレスチナゲリラによって起こされたテロ事件と、その後のイスラエル政府によるパレスチナ側に対する報復をサスペンスフルに描き、昨年末の全米公開直後から、世界中で話題となっているスティーブン・スピルバーグ監督の新作「ミュンヘン」。先日、緊急来日した主演のエリック・バナに話を聞いた。(聞き手:編集部)
エリック・バナ インタビュー
「結局、あの報復は何の解決にもなっていないんだ」
――この映画に出演することになった経緯は?
「3年前に、スティーブン(・スピルバーグ)からランチに誘われたのが最初だね。そこでこの作品の話を聞いたのだけど、あまりに凄い話なので圧倒されてしまったんだ。ショッキングかつスリリングで、とにかく興奮した。非常に挑戦的な作品なので、これは色々な意味で大変な役だなと感じたんだ。個人的に今までと違うと思うのは、この作品が非常に重要な問題を扱っていつつも、古典的なサスペンス・スリラーの形をしているということなんだ。スリラーというジャンルは自分自身が今までやったことのない初めてのジャンルなんだよ」
――役作り、または撮影中に苦労したことは? アブナーのモデルには会いましたか?
「事件についてや中東情勢のことは念入りにリサーチしたよ。アブナーのモデルにももちろん会った。彼はとても協力的な紳士で、実際の暗殺活動の話を教えてくれたよ。劇中、アブナーが他の暗殺メンバーに料理を振る舞うところなんかは、彼が実際にやっていたことなんだ。撮影中の苦労については、今回のアブナーという役は実際にヨーロッパ中を駆けずり回るように多くの旅をするけれど、精神的にも旅をするんだ。順番通りに撮影していない上に、同じ日に全然違う場所で撮影したときが多かったから、アブナーがどこからどうやって崩れていくのか、場面ごとにどういう精神状態になっているのかを考え、そして演じるのがとても難しかったね」
――スティーブン・スピルバーグ監督とのコラボレーションはいかがでしたか?
「スティーブンは素晴らしく天才的な映画監督であると同時に、すごく心が広くて、人を使うのが上手い人なんだ。常に観客の目線を持ってくれるし、僕らの直感やアイデアを奨励してくれる。彼からはとてもインスピレーションを受けたよ。どの共同作業も本当に楽しくて、素晴らしい時間を過ごせたね。これまでの彼の好きな作品も挙げたらキリがない。『激突』『ジョーズ』『未知との遭遇』はもちろん、『A.I.』『ターミナル』といった比較的最近の作品も好きだよ」
――本作においてスピルバーグ監督は、イスラエルがやったことは間違っているというメッセージを明確に打ち出していますが、あなたはどのように考えていますか?
「この映画には『暴力、報復の連鎖というものが、何かを生み出すのか、何かを達成できるのか?』という挑戦的な問いかけがある。あの事件が起きた当時は、テロリストが無実の人間に対して残虐非道な行為を行ったのだから、報復を正当化するという気持ちがあったということも理解出来るけど、あの報復をしたことによって、何か問題が解決したかというと、結局何も解決出来ていないんだよ」
――アブナーはイスラエルからの指令を受け、少し考えた末に暗殺の仕事を引き受けますが、あなただったらどうするのでしょう?
「彼は家庭人である前に、やはりプロフェッショナルなんだ。劇中『これを断っては生きていけない』という台詞があるけど、まさにその通り。彼の気持ちが痛いほど分かるんだ」