劇場公開日 2002年12月7日

「21世紀の冒頭にディストピア実現の具体性を示したところに意義がある」マイノリティ・リポート あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.021世紀の冒頭にディストピア実現の具体性を示したところに意義がある

2018年12月6日
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鑑賞方法:DVD/BD

原作を元にお話を膨らましてはいるのだが、映画としては上滑りしてしまっており、残念な結果だと言わざるを得ない
本作を救ったのはトム・クルーズの熱演で、彼が主演していなければ映画としては悲惨だったろう
スティーヴン・スピルバーグ監督も力み過ぎたのではないか
おそらく「2001年宇宙の旅」の様に、何十年経とうといつまでも色褪せる事のない未来像を提示した映画として金字塔を打ち立てるのだ
そのくらいの心意気で撮った様に思える

果たして本作で提示された近未来の姿は、大いに観る価値がある
何しろ近未来の技術がもたらす姿を全米最高の専門家が結集して真剣に検討したものが散りばめてあるのだ
それらは本作の製作時から52年後の未来とはどのような社会かを指し示しているのだ

そして2018年の今は既にその52年の三分の一の時間が経過して、本作で提示された未来の世界の技術は部分的にもう現実化日常化してきているのだ

自動運転はもうそこだ
ドローンは当たり前になり人が乗るものまで出てきた
タッチデバイスへのジェスチャー操作はスマホでもう日常だ
虹彩認証どころか顔認証システムで雑踏の中で個人を特定できる仕組みはもう普通にチェーン店に入っていて、お得意様やクレーマーの来店のアラートを店員に知らせている
さらにアマゾンゴーの店では顔認証でレジ無しになっている
街中にある防犯カメラで犯人を追跡するのは刑事ドラマの定番だ
電子看板は街中に溢れていて様々な動画で広告を流している
ネットを検索していたら自分の興味にターゲティングされたワンツーワンマーケティングの広告が出るのも最早当たり前のことだ
ニュースも自分向けにカスタマイズされて配信されて動画でも提供されているのは普通だ
マイクロマシンもハエサイズのものまである

これらの技術はこれからも進化し続け統合されて、本作で示されたようなディストピアは確実に訪れるだろう

犯罪予知?
そんな荒唐無稽なことSF小説や映画だけのお話さ?

いや実はもうあるのだ、それも日本で
過去の犯罪発生データを分析して、いつどこでどのような事件が起こりやすいのか予測して警官を事前に近くで待機させる仕組みで、既に効果が出ているという

中国ではこれらの技術をさらに組み合わせて個人を管理している
日頃のSNSの言動、検索履歴、位置情報、行動パターンから思想信条を分析し、政府が問題視すべき個人を何億人がいようと人工知能がそれをあぶりだすのだ
政府に都合が悪いような何らかの行動を取ろうとすれば、それを予測して、正に本作の犯罪予防局の様に治安部隊が出動するのだ
その個人は未然に拘束され、収容所に入れられてしまう
それはもう始まっており、さらに技術を洗練しようとしているのだ
顔を見えないよう隠したとしても歩き方だけで個人識別できるという

この悪夢の具体的イメージを映像で21世紀の冒頭に示したことこそ本作の意義だ
21世紀とはこういう時代になるのだとの予告だ
今こそ本作の提起する問題は、重要性を増して、具体的な危険となり、緊急性を帯びてきているのだ
もう絵空事ではなく、本当に実現してしまう予知なのだ
しかもこれはマイノリティリポート(少数報告)ではないのだ

あき240