劇場公開日 2005年12月17日

「想像以上に悲惨な出来栄えだった。 映像のリアルさとか、迫力などを強...」キング・コング うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0想像以上に悲惨な出来栄えだった。 映像のリアルさとか、迫力などを強...

2022年3月15日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

想像以上に悲惨な出来栄えだった。

映像のリアルさとか、迫力などを強調して見せたいのだろうが、リアルさにこだわればこだわるほど、細部のウソが強調されて目立ってしまう。

肝心なのは美女と野獣が心を通わせ、摩天楼のてっぺんで叶わない恋心を打ち砕かれるクライマックスの悲しさ。そのおとぎ話をどれだけシンプルに成立できるかだけなのに、なぜこんなに大仰な長ったらしいお話になってしまうのか。

もう15年も昔の作品だと思えば納得も行く。それほどの年月に、当時最新鋭の技術の粋を集めた映像すら、細部のアラが目立つ。映像の進化は目覚ましい。どれほどの巨費がこの映画につぎ込まれたか知らないが、聞くところによれば、ピーター・ジャクソン監督は私財をなげうってまで、この映画の完成に心血を注いだという触れ込みだった。しかし映像や音響の評価はともかく、興行的にも作品の評価は芳しくなかったと記憶している。監督もしばらく立ち直れないダメージを被ったのではなかろうか。

どこら辺がウソっぽく見えたか、書き留めておく。

・嵐の中大波に揺られる調査船の映像。ほとんどCGで作られた映像なのだろうと思われる。ありえないアングルから俯瞰される映像は色味や波しぶき、船の挙動に至るまでいちいちウソくさい。

・コングの色。これほど大きな動物であれば、周囲の光源や気象、色調の影響を大きく受けると思われるのに、全編にわたってほとんど同じ色味で登場する。彼によって破壊される建物や乗り物、木や水の動きも重量感に乏しい。

・女優の演技は素晴らしいと思う。しかし、雪が積もるほどの都会で、裸に近いドレス姿で連れまわされれば、まず何よりも寒さに耐えることが前面に表現されるべきだろう。当然、温暖な気候で育ったであろうコングも、寒さから逃れることが最優先の行動基準になるはずだ。それなのに凍結した湖面で、まるでスケートを楽しむかのようなコミカルな映像がインサートされたり、現実離れも甚だしい。

・おそらくオリジナルの『キングコング』に忠実に作られたのだとは思うが、もちろんちゃんと見たことは無い。ほとんどの人がそうではなかろうか?リスペクトは大切だが、原作の改編も、必要に応じてやるべきだろう。具体的には、複葉機から銃弾を撃ち込まれて、高層ビルから転落するクライマックスだ。生き物が生存本能に則って行動したら、絶対にビルに登って戦闘機と闘う結論にはならないだろう。美女を守るためにやむを得ず登るとかだったらギリであり得るかもしれないが、出来るだけ生き残る確率が高い行動をとるはず。つまり、逃げるのが自然だ。美女が、劣勢のコングを守ろうとして高い梯子を必死で登る行動も不自然だ。あれだけの長梯子を、女性の細腕で一気に登り切ることはまず不可能。鍛え上げられたアスリートでもどうかと思う。

当時、あのピーター・ジャクソンがこだわりぬいた映像美は必見!みたいな売り文句だったと思うが、残念ながら一つも興を惹かなかった。不評かどうか見た人の感想にも興味が無かった。まず「いまどきキングコングかよ…」みたいな先入観が強かった。オリジナルが公開された当時は、本物の象すら見たことが無い人だってたくさんいたことだろう。映画で知的好奇心を満たす行動原理は今と変わらないにしても、巨大なサルが都会で美女をさらって大暴れする映像を、誰が見たいと思うだろうか。

2020.10.7

うそつきカモメ