秘密のかけら : 映画評論・批評
2005年12月20日更新
2005年12月23日よりシャンテシネほかにてロードショー
客観が信じられなくなった時代に別種の「真実」が追求され始める
1950年代末に人気絶頂にあったエンターテインメント・デュオをスキャンダラスな事件が襲う。TV番組の収録から戻ったホテルの部屋で、若い女性の全裸変死体が発見されるのだ。まだタブロイド紙やTVによるスキンャダル報道が今ほど盛んでなかった当時、事件は女性の自殺として曖昧に闇に葬り去られた。だけど、それから15年後、若い野心的な美人ジャーナリストが、真相を突きとめるべく事件後にコンビを解消した2人に文字通りの体当たりで急接近。そこで浮かび上がる華やかなショウビズ界やスターの隠された暗部とは……。
ゴージャスなハリウッド的ショウビズ界を一種の寓話(おとぎ話)の世界と捉える、鬼才エゴヤン監督お得意の設定のなか、むろんそこに迷い込む女性ジャーナリストは“不思議の国のアリス”となる。60年代末から70年代にかけてルイス・キャロルがドラッグ・カルチャーの先駆者とされた文脈も踏まえ、エゴヤン作品でいつも潜在的にうごめく“エロティシズム”がサイケ美学と共に前面に出てくる作品としても興味深い。
“秘密が秘密であった時代”、50年代が終わり、客観的な「真実」など誰も信じなくなったその時代、セックスやドラッグに溺れる陶酔のなかから、主観的な感情と不可分となった別種の「真実」が追求され始めるのだ。
(北小路隆志)