劇場公開日 2005年11月26日

「【79.7】ハリー・ポッターと炎のゴブレット」ハリー・ポッターと炎のゴブレット honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【79.7】ハリー・ポッターと炎のゴブレット

2025年8月9日
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作品の完成度
本作の最大の功績は、原作の膨大な物語を2時間半という尺に収め、シリーズを少年から青年へと向かう物語へと転換させた点にある。三大魔法学校対抗試合という競技を主軸に、ハリーの友情、恋、そして迫りくる死の影といった内面的なドラマを短絡的に結びつけ、映画独自のダイナミズムを創出。特にクライマックスのヴォルデモート復活シーンは、シリーズ全体にわたる「闇の時代」の始まりを予感させる、強烈なインパクトを残す。しかしながら、この凝縮された構造は、物語の深層を犠牲にしている。対抗試合の課題は、それぞれが視覚的インパクトを優先した結果、一貫したルールやテーマが欠如し、物語の進行を加速させるための都合の良い「装置」として機能してしまった。これにより、映画は観客が世界観に深く没入する機会を奪い、物語に内在するリアリティや説得力が損なわれた。原作の複雑な人間関係やサイドストーリーが大胆に割愛されたことは、映画を表面的なスペクタクルへと矮小化させたと言えるだろう。
監督・演出・編集
マイク・ニューウェル監督は、これまでのシリーズにはない、思春期特有の焦燥感やぎこちなさを演出に持ち込んだ。ティーンエイジャーの葛藤をリアルに描写しようとする試みは評価に値する。しかし、物語全体を支配するのは、ミック・オーズリーによるテンポを重視した編集だ。原作の膨大な情報量を凝縮するため、出来事を次々と繋ぎ合わせる編集は、作品をノンストップな見世物へと変貌させた。これにより、物語に内在するテーマやキャラクターの感情の機微を深く掘り下げるための「余白」が失われた。結果として、観客は物語の表層をなぞるだけで、その深部にある本質に触れることが難しくなっている。
キャスティング・役者の演技
主演、助演合わせて4名の演技を考察。
* ダニエル・ラドクリフ(ハリー・ポッター役)
シリーズの主役として、少年から青年へと成長するハリーの複雑な内面を力強く体現。思春期の孤独感や苛立ち、初恋の戸惑いを瑞々しく表現する一方で、ヴォルデモートと対峙するクライマックスでは、死の恐怖と悲しみが混在する感情を鬼気迫る演技で体現し、役者としての大きな成長を証明した。限られた時間の中で、多層的な感情を伝える彼の演技は、作品の持つ「雑さ」を補う説得力をもたらしている。
* ルパート・グリント(ロン・ウィーズリー役)
ハリーの親友として、ハリーへの嫉妬と友情の間で揺れ動くロンの葛藤を見事に表現。友情に亀裂が入るシーンでの、不器用で不安定な感情表現は、ティーンエイジャー特有の感情を鮮やかに描き出し、物語にリアリティを与えている。
* ロバート・パティンソン(セドリック・ディゴリー役)
ホグワーツの代表選手として、ハリーのライバルでありながらフェアプレー精神を貫く誠実な青年、セドリックを好演。爽やかな好青年という表層的なキャラクターの中に、悲劇的な運命を予感させる存在感を滲ませ、シリーズ後半の重苦しい展開を象徴する役割を担った。
* レイフ・ファインズ(ヴォルデモート卿役)
クレジットの最後に出てくる有名役者として、肉体を得て復活したヴォルデモートを圧倒的な存在感で演じた。不気味で残虐な実態、歪んだ顔つき、静かで冷酷な話し方、わずかな登場シーンで物語全体に暗い影を落とす、完璧な演技であった。
脚本・ストーリー
脚本はスティーヴ・クローヴスが担当。J.K.ローリングの原作小説を大胆に再構築し、映画としてのドラマ性を優先。三大魔法学校対抗試合というサスペンスフルな設定を最大限に活用し、物語をスピーディーに進行させることに成功した。しかし、原作の持つ重層的なテーマや伏線、キャラクターの背景が大幅に割愛されたことで、物語の深みが損なわれ、結末の衝撃性が単なる出来事として消費される危険性もはらんでいる。
映像・美術衣装
美術はスチュアート・クレイグ、衣装はジャニー・テマイムが手掛け、作品の視覚的なクオリティは極めて高い。ホグワーツ城の荘厳な外観に加え、ボーバトンやダームストラングの個性的なデザインは、物語の世界観を拡張する役割を果たした。対抗試合の舞台となるドラゴンとの対決、水中の神秘的な世界、不気味な迷宮の表現は、CGとセットを巧みに組み合わせ、圧倒的な迫力とリアリティを生み出した。
音楽
音楽はパトリック・ドイルが担当。前3作のジョン・ウィリアムズから引き継ぎ、より重厚でシリアスなトーンを帯びた旋律で物語を彩った。ヴォルデモートの復活を象徴する不穏な旋律や、対抗試合のスリリングなBGMは、作品のダークな雰囲気を効果的に高めている。主題歌はないが、ダンスパーティのシーンでウィーズリー兄弟が結成したバンド、ザ・ワースト・シスターズが演奏する「Do the Hippogriff」は印象的。
受賞歴
第78回アカデミー賞において、美術賞にノミネート。その他、英国アカデミー賞(BAFTA)でも美術賞にノミネートされており、作品の視覚的なクオリティが高く評価されたことを示している。

作品
監督 マイク・ニューウェル 111.5×0.715 79.7
編集
主演 ダニエル・ラドクリフB8×3
助演 エマ・ワトソン B8
脚本・ストーリー 原作
J・K・ローリング
脚本
スティーブ・クローブス B+7.5×7
撮影・映像 ロジャー・プラット A9
美術・衣装 美術
スチュアート・クレイグ
衣装
ジェイニー・ティーマイム
A9
音楽 音楽
パトリック・ドイル
テーマ曲
ジョン・ウィリアムズ A9

honey
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